天使像
崩れた壁を抜けると、ブロンズ像と言うのだろうか
少女の裸婦像が目についた。
両手を広げた少女の背中には翼があり、天使を模してるようだ。
今にも飛び立とうと微笑む顔は火災による炎で真っ黒に焼け爛れていた。
その像を囲むように赤錆び骨組みだけとなったソファーが何脚も佇んでいる。
正面ホールに出たのだと僕は思った。
病室はホール受付の奥にある階段の先だ。
なぜ分かるのか…僕は疑問におもったが
次の瞬間、それは来た事があるからだと自分の疑問に答えた。
それも一度だけではない、何度も何度も来ている。
何故、忘れていたのだろう。
階段を上がりきると鉄格子の扉があり僕に対して頑強に立ちはだかるが
ソッと押すと金属を擦り付ける音を出しながら呆気なく開いた。
真っ直ぐ延びる廊下に出ると、鉄格子がはまったままの窓から陽の光が入り
床に散乱しているガラス片を照らしている。
こーちゃん…
音声ではない女性の声が僕の頭に響く
その廊下の先に車椅子が待っていた。
何度も何度も押した車椅子、側溝に脱輪させて
付けた傷が入ったタイヤもそのままだ。
この先に部屋はある。
煤けた名札は…
沢田智子
僕は全てを思い出したのだった…