ここで待って
「いやいや、此処に行こうって言ったのは君だぞ?」
中島さんは困った顔で僕を見た。
確かに先ほどまでは付いて来て欲しいと思っていた。
訳の分からない警告にムカついた等と言いはしたが
やはり、不安である方が強い。
いきなり落書きを始め、その間の記憶が無くなるなんてのを体験してしまうと…
もしかしたら廃病院の中で再び奇行をやり出すかも知れない。
それも、警告を強める為に落書きなんかじゃ済まない行為に及ぶかも知れないのだ。
だが、その原因が何なのか分からないまま去れば
二度と分からないままだろう。
沢田智子も病院も…だ。
だから、中島さんには着いて来て欲しいと思っていた。
僕の奇行を目撃しても冷静に対処し
住職に会わせてくれた彼の行動力があれば
僕が再び何かしらをおこしても助けてくれると
期待をしていたのだ。
だが、此処で別れようと思った。
彼を巻き込みたくないとかな崇高な考えではない。
廃車の白骨化した様な顔を見た時に僕は
こんなに大きい車だったかな…?
と、思った。
そう、僕はこの車を知っている…
この車が動いていた頃を知っている…
同時に彼とは一緒に行けないと強く感じたのだ。
「しょうがねぇなぁ…何かあったら大きな声で読んでくれよ」
僕の表情に何かを感じたのか中島さんは承諾してくれた。
「すいません…」
「良いよ、此処は何度か来てるからね」
謝る僕に中島さんは気にするなと言いながら
腕時計の文字盤を見せた。
「だが、30分過ぎて戻らなかったら声が聞こえなくても行くから」