序章 四話 「不審者?」
そこにいたのは、黒服の不審者だった。
「いや不審者じゃねーよ」
「う、嘘だぁ……」
深くかぶった黒のハット帽、巨大な黒コート。
さらには、長い黒マフラーをぐるぐると巻いており、目元以外肌が見えない。眠そうな目。
怪しすぎる。これが不審者じゃなくてなんだというのか。
「俺からすればお前が不審者だよ。ここ俺の部屋」
「ええ……」
本当だろうか。それなら確かに、どちらが不審者か分からない。
「えっと……、起きたらここにいて……」
「まあアラスターだろ、たぶん。とりあえずついて来い」
そういって不審者は部屋から出て行く。
不審者じゃありませんように、と祈りながら、ついていってみる。
「お前、リリー・アステリアか?」
「……はい」
なぜ、皆私の名前を知っているんだ。
「ここに入れ」
言われた通り、部屋に入る。
寝る前に、アラスターといた部屋だった。彼の姿は無かったが。
「ふん、もう行ってやがる」
アラスターはどこかに行ったのだろうか。
「とりあえず追うぞ。表に出て車に乗れ」
「?」
車? なんだそれ。
「あの……」
「早くしろ、時間が無い」
あわてて玄関(?)から外に出る。
「……なんだこれ」
目の前に、謎の物体がいた。
「どうした、早く乗れ」
振り返ると、不審者が玄関から出てきていた。
「あの、なんですかこれ」
「……そうか」
彼は呟くようにそう言うと、謎の物体に手を掛け、ドアのようなものを開く。
どうやら乗り込めるらしい。
「ここに座れ」
中には不思議な形の椅子があった。ここに座ればいいのか。
見ると、反対側のドアから、不審者が乗り込んでくる。怖い。
乗り込んだかと思うと、何かの鍵を取り出し、近くの鍵穴に差し込んだ。
すると、どうだ。謎の物体がうなり声を上げながら震えだしたではないか。
「わ、わわ」
「落ち着け、何も危険なことは無い」
もしかしてこれ、生き物なんだろうか。
「どっかに捕まってろ」
「え?」
次の瞬間、物体は爆速で走り出した。
「──な──何これ────」
見ると不審者は、説明しがたい円形の物体を握っている。いや、回している?
物体の速度は、いつのまにか異常なまでに上がっている。時速300kmは超えていそうだ。
「幸い、あいつは近くにいる。今から行けばギリギリ間に合うだろう」
「な、何に間に合うんですか──」
「……あいつから聞いてないのか」
アラスターが、何か伝え忘れたんだろうか。
「まあいい。その辺は後で説明する。それよりもう着くぞ」
物体が速度を急激に落とす。捕まっていなければ前のガラスにぶつかっていただろう。
ついに止まった。
「降りろ、ついて来い」
「ま、待って……」
不審者は走っていってしまう。まだ、先ほどの物体のせいで、少し目が回っていて上手く走れない。
急いで追いかけると、不審者は少し行った所で立ち止まっていた。
「はあ、はあ……」
息を切らしながら、何とか追いつく。
「無駄足だったか」
「え……?」
何を言っているんだろう。不審者の向いている方を見てみる。
そこには、火の海が広がっていた。
「何で……」
ふと、海の中に人影が見えた。
燃え盛る炎の中で、こともなげに突っ立っている。
見間違えようも無い。
「アラスター……!」




