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六話、そして⎯⎯

0時に四話、五時に五話と六話を投稿しています。

 ターニャが魔法を使えなくなったと言っていたのはもちろん嘘です。


 エマが上手くできなかったら、ターニャが三人をもとに戻すつもりでした。


 “魔法の種”を芽吹(めぶ)かせるのに必要なのは人の思いの強さです。


 でも、人の思いもさまざまです。

 それは愛情であったり、悲しみであったり、好奇心であったり、怒りであったりします。


 魔女の弟子、魔女の見習いになる条件は、“魔法の種”を芽吹かせるほどの強い思いを持てること、そしてもう一つ⎯⎯怒りのままに魔法を使って人をひどい目に合わせるような者ではないことでした。


 エマの心の強さは、ターニャには出会った時からわかっていました。

 あとは自分をいじめる三人への恨みや怒りの思いを乗り越えることができるのか?⎯⎯それだけが、エマが魔女見習いになるための残りの条件だったのです。


 えっ?⎯⎯ターニャはあの三人をひどい目にあわせたじゃないかって?


 そうですね。去年の世界魔女会議でも、人をカエルに変えてしまった昔の悪い魔女が問題になっていましたものね。


 でもほら、可愛い末っ子の試練(しれん)に家族が力を合わせて応援するなんて、とても心あたたまる出来事ではありませんか。


 そうです。今回、あの三人は可愛いエマのために協力してくれたのです。


 ターニャが食べ物の恨みを晴らしたかっただけ、なんてことはけっしてありません。⎯⎯本当ですよ。



 ◆◇◆◇◆



 その後のお話をしましょう。


 金貸しからの借金のことは、すぐに解決しました。

 ターニャが肩代(かたが)わりして、全額一括(いっかつ)で支払ったのです。


 じつは、ターニャは大金持ちです。

 いろいろな魔法の道具を開発してずいぶんもうかっているのに、魔法の研究ばかりしていてお金をぜんぜん使わないからです。


 お父さんとエマの二人で、少しずつターニャにお金を返していくことになりました。


 そうなるとお義母(かあ)さんたちはどうなるのか?⎯⎯といえば、これが何やら不思議なことになりました。


 じつはお父さんとお義母さんは結婚していなかった、ということがわかったのです。


 お義母さんの前の夫との正式な離婚の手続きが、まだされていなかったのです。前の夫が手続きを忘れていたのだそうです。


 この国では、王様や貴族の当主は複数のお嫁さんと結婚することが許されているのですが、それ以外の人の場合、結婚相手は一人だけと決められています。


 同時に二人の男性と結婚したことになるお義母さんは、罪に問われて牢屋に入れられるところでしたが、お義母さん本人は知らなかったことなので許されました。

 でも、エマのお父さんとの結婚は無効とされたのです。


 お義母さんたちは自分たちの荷物をまとめてすぐに出て行きました。荷物が多かったので、人を雇って荷車を引かせて行くことになりましたけれどね。


 三人があっさりと出て行ったことに、エマは寂しさを感じていました。


 自分が洗濯したドレスを着て嬉しそうにしていたり、自分が作った料理を美味しそうにおかわりしてくれたり。

 あの三人との暮らしは大変だったけれど、エマはけっこう楽しかったのです。


 エマは師匠から許しをもらい、三人を見送るために帰ってきていました。

 師匠というのはもちろんターニャのことですよ。


 師匠は「あの三人なら心配しなくても大丈夫よ。魔女の弟子の加護(かご)が付いているもの」と言っていましたが、自分の加護と言われて、エマはかえって心配になりました。


 三人は振り向かずに行ってしまいました。

 エマはお父さんと二人で、三人の姿が見えなくなるまで見送ったのです。


 ◆◇◆◇◆


 ⎯⎯あの家は私にはきれい過ぎたのよ。


 荷車と一緒に歩きながらお義母さんはこの三年のことを思い返していました。


 自分が悪いことはわかっています。でも……。


 ()き妻を愛し続ける優しい父親。父親を気づかい、健気(けなげ)に頑張る可愛い娘。

 そんなきれいなものをもらったら、自分のせいで傷つけてしまいそうで……だから壊してしまいたくなったのです。


 でも、二人とも心もとても強くて、壊すどころか引っかき傷一つつけられませんでしたけれど。


 今はなんだかほっとしていました。

 この先の生活の不安はあるけれど、なんとかなるような気がするのです。


 一度ガマガエルになってから、不思議に心が落ち着いて、今までいつも感じていたイライラが無くなっているのです。


 ⎯⎯さて、どうしたものかしら?


 金貸しをしている弟が、自分たちに帰ってきてほしくないと思っていることはわかっています。


 ⎯⎯でも、他に行くところも無いしね。


 その時、三人に話しかけてきた人がいました。


「もしもし、そこのお嬢さんがた」


 見れば、声をかけてきたのはかっぷくの良い紳士です。五十歳ぐらいでしょうか。

 彼は「失礼しますよ」と、いきなりこちらの手を握ってとても嬉しそうに笑いました。


「おおっ、やはりっ。なんて温かい」


 子供のようにはしゃいでいるのは都のはずれにある大きな薬草園の園長さんでした。


 今年は夏の嵐の被害で薪を買うお金があまり無く、冬の寒さで薬草たちがすっかり弱ってしまっているのだそうです。


 困った園長はしかたなく金貸しにお金を借りに来て、その途中で三人に出会ったのです。

 園長は驚きました。三人の近くにいるだけでポッポと暖かくなったからです。


 園長に言われて、三人は⎯⎯そういえば雪道を歩いているのにぜんぜん寒くなかったわ⎯⎯と思いあたりました。


 原因は三人を人間に戻してくれた、あの赤い光です。

 エマの魔法の力が今でも三人の体の中で生きていて、体だけでなくその周囲までポカポカ温めていたのです。


 三人は園長に頼まれて薬草園で住み込みの仕事を始めることになりました。


 そして薬草園の薬草たちと冬の風邪に苦しむたくさんの都の人々を助けることになったのです。



 ◆◇◆◇◆



 ターニャが気がかりなのは、自分のやったことが『一年一善(いちねんいちぜん)』として認められるかどうかでした。


 心配していたとおり、ターニャのことが会議の中で問題になりました。


「おなかを()かした子に、クッキー一枚ってひどすぎるわ」


「弟子にしたことで、助けたことになるんじゃない?」


「弟子になった時はもう年を越していたわ。今年の話じゃないの」


「少女の家族がご馳走をちゃんと食べているようだけど?」


「お祭りでご馳走を食べまくった酔っぱらいに、さらにご馳走してどうするのよ!⎯⎯食べた本人たちがぜんぜん覚えてすらいないじゃないの!!」


 けっきょく、久しぶりにできた魔女見習いへのお祝いも込めて、エマを弟子にしたことが、ターニャの去年の『一善』として認められることになりました。


 さあ会議が終わったらすぐに帰りましょう。

 会議にあきて、床につかない足をブラブラさせていたターニャは、(ほうき)を最高速度で飛ばして帰って行きました。

 今年はとても忙しいのです。


 魔法の研究と、エマの勉強と、魔法の研究と、エマの魔法の訓練と、魔法の研究と、魔法の道具作りと……。


 なにより、今年は去年と違って、困っている人を二人も見つけなければならないのですからね。






おしまい

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