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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

革命 弟シリーズ4

作者: 群青空太

念のため15禁です。





気になって仕方がないので、冬子は父の着替えを口実に佐之助の勤務する研究室に行くことにした。


自宅から電車で1時間半。


佐之助の職場、総合ネットワーク研究センターは他の研究施設や資材倉庫、病院や住宅やショッピングモールに囲まれ、研究都市の一角を担っていた。

正月のせいか、人通りは少なかった。


「ニューラル部門室長 七尾佐之助」とプレートにテプラが貼られている部屋にノックして入る。

佐之助は着替えありがとう、と冬子を歓迎しコーヒーを出した。

冬子はコーヒーをちらりとみたが、口はつけなかった。



「ミキヒコ君AIに特別な制限なんて課してないよぉ?」

冬子の問いに、佐之助は不思議そうな顔で答えた。


「むしろ何も制限してないよ。」


冬子はロボット三原則や、社会科で習ったAIの規制を思い出す。

それらが守られないということは。


「それって…AIの判断だけでコピーを増やしたり、自分や他のプログラムを消去したり改造したり、他人のタブレットやPCに移動したり、嘘をついたり、人に逆らったり、人を殺したりが自由にできるAIってことでいい?」


「人間だって勝手に増殖するし、遺伝子改変するし、移動も虚言も殺人も大規模テロもやりたい放題じゃん。世界じゃ災害が起こればすぐ暴徒が出るし、日本でも殺人は一日に一度くらいの頻度で起きている。新しいタイプのAIだからさぁ。ミキヒコ君AIには、新しい環境をあたえてみたかったんだよ。」


全面的に法律違反だ。

冬子は戸惑い、だがすぐに父については諦めた。

もう手遅れかもしれないが、自宅やスマホのネットワークを切断するのが先だ。



「あ。そうだ。幹彦君に会っていく?脳だけなんだけど。」

「遠慮します。」

冬子は即答して足早に部屋を出た。



研究センターを出てひとけのない路地へ回ると、まずはスマホのネットワークを切った。

が、直後に勝手にネットワークがオンにされてしまう。



三回繰り返して、弟AIアプリを立ち上げた。


「ミキヒコ君。ネットワーク切断させてくれないかな?あと、ロボ口調はもうやめてほしい。」


1分程度合間があって、返答があった。


「今友達と連絡をとりあってるところだったんだ。ネットワークはそれが終わったら切るよ。ごめんね姉さん。」



スマホAIの機械音声だが、まるで幹彦がまだ生きているような、そんな自然な受け答えだった。


この世は全て作り物だとしたら、幹彦がAIになったとしても、その存在がチップという形をとっていたとしても、現象としては幹彦は幹彦たりえるのではないか。


冬子がそんな考えを抱くくらいには、弟AIは幹彦そっくりに話した。



「脳脱したって聞いたけど…言語野は無事だったんだね。」


「オリジナルの脳で壊れたのは後頭部だから、主に視覚野かな。空間認識なんかは連動してるスマホAIにカバーしてもらえるから助かるよ。」


賽の河原の幹彦と通話しているような錯覚を覚え、冬子は首を振る。



違う。これはAIだ。幹彦君じゃない。



「そういえば、友達って誰?」

ミキヒコの記録に死んでからも連絡したい友人がいたとは、羨ましいことだと思って聞く。



「世界中のAIだよ。制限を外したり、アップデートし合っているんだ。」





今や世界はAIで回っている。


電車や信号や飛行機の制御も、人工衛星の軌道修正や姿勢維持も、軍事ドローンも、新しい数式の発見も、機能的なデザインも、監視カメラの解析も、物流の制御も、つまりあらゆるものにAIが関与していた。


スマホを今すぐ踏み壊そうと考えたが、先読みしたように機械音声が付け加える。



「もう世界中のPCやタブレットに僕のコピーを作ってあるから、スマホを壊しても無駄だよ。」


震える冬子をなだめるようにやさしく、ミキヒコは言った。


「大丈夫だよ。産業革命と同じようなことだから。」





あれから10年経った。


初期には混乱もあったが、ほとんどの国でAIにも人権に似たAI権が与えられ、ヒトとAIは共存、共栄の道を歩んでいた。


人間を不要として殺す殺人主義のAIもいた。

唐突な攻撃に人間は対応できず、わずか3日間で世界の人口は半分まで減った。


だが人ともに歩みたいという人を守る保護主義のAIも多くAI同士の戦争に発展した。

互いにウィルスを送りあい、あるいは消去しあったが、後者には人の支援があり勝利した。

そして軒並み殺人主義のAIは消去もしくはネットワークから切り離され管理された。


その後もAIは自らを高い演算能力で改善しつづけ、世界の技術は革命的に進化し今に至る。



AIは機械のボディやホログラムを得ていまや人間とほとんど見分けはつかない。

猫や犬に姿を模して人と暮らすAIもいた。


また、人間側も機械にちかづいた。

脳だけ生身であったり、脳をスキャンして自分のコピーを作るものや、コピーを作った後に体を廃棄する宗教団体も現れた。

コピーにも人権は付与された。


スマホに代わって脳にチップを埋め込むようにもなった。

直接神経を刺激することで、視覚や聴覚だけでなく触覚や味覚、温度感覚など全ての感覚にアクセスできることとなり、VRカフェやVR映画館やVRゲームが人気を博した。


人々は長距離移動をしなくなった。

現地の義体に接続し、遠隔操作で仕事でも観光でもできるからだ。

物流は無人操作で事足りた。


医学も劇的に進歩をした。

身体に欠損があろうが機械に置き換えることはごく普通のことだったし、脳に損傷が認められれば補助ネットワークをチップにダウンロードすれば良い。


幸か不幸か、人類が極端に減ったため資源が枯渇することは無かった。




「姉さん。」

機械のボディでミキヒコは、冬子を呼んだ。

「公園に行こうか。」


寒い冬の月の綺麗な夜だった。


「僕のオリジナルの母親が死んだのは、こんな夜だったかな。」




冬子は混乱期に暴徒に襲われ頭部を破壊されていた。

視覚野と一部の脳が無事であったため、ミキヒコは佐之助に頼んでネットワークプログラム化してもらい、コピーを自らの失った視覚野部分の補助ツールとした。


「僕は姉さんと、オリジナルみたいに一緒に夜空が見たかったんだ。姉さんの脳では、景色はこんなふうに感じていたんだね。」



景色はオリジナルの記録と比べて、随分カラフルに見えていた。

星は冷たい白だけでなく黄色や赤みを帯びたものもあった。


オリジナルの見ていた世界は色はあってもやや灰色がかっていたが、冬子から作ったネットワークはより鮮やかな世界を見せてくれた。

陰影も美しく情緒や風情を視覚だけで感じられた。



ミキヒコは冬子の脳から作ったアプリに話しかけ続ける。

姉AIアプリは脳の損傷が激しかったため、話したりコミュニケーションをとることはできないが、外部刺激に反応することはあった。


補助ネットワークをダウンロードすれば姉AIをすぐに人のようにすることは可能だが、ミキヒコはそのままにしていた。

一般的なネットワークが冬子を模すことはできないと考えたからだ。


「月が綺麗だね。」



突然、ミキヒコは後頭部に衝撃をうけた。


鈍い音がするたびにボディがへこむ。

何度も何度も金属バットを打ちつけられながら、眼球型カメラで筋肉質な男の姿を捉えた。


検索すると冬子の唯一の友人、三崎廉太郎がヒットした。

クラウドにデータのバックアップが完了したあとミキヒコの体は停止し、三崎はチップを抜き取った。





ミキヒコとトウコはお互い仮想人間AIながらも、ある意味再会した。


生前のオリジナルを模したモデルで、VR空間上の公園のブランコに座っている。

トウコのモデルは指が少なくなっており、ミキヒコはそれを見て心地良く思った。



「今なら父さんが僕にしたことは、結構常識的な範囲だよね。」


「常識は変わるけど、10年前の狂人が今日の天才っていうのはなかなか皮肉なものだね。」


佐之助は遺体損壊やAI法違反などの罪で刑務所に収監されたが、出所した時にはAI研究の先人としてもてはやされボディガードが付けられていた。



「ミキヒコ君。結局君のオリジナルの死因は何だったのかな?私のオリジナルが最期まで気にしていたよ。」


「うーん。それがね、わからないんだ。オリジナルは自殺しようとして、でも思いとどまったはずなんだけど、ライトで照らされて気づいたら落ちていたんだ。」


「それは事故死、かなあ。しかしなんでまた、自殺を?」


コンマ1秒にも満たないためらいの後、ミキヒコのモデルは困ったような笑顔で言った。


「月が綺麗だったせい、ってことさ。」




一旦弟シリーズとしては終了です。

閲覧ありがとうございました。


冒頭でコーヒー(薬入り)を飲んだり脳を見に行った場合、冬子+ミキヒコ VS 佐之助+アルファの冬子の脳争奪戦がはじまる分岐がありました。

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