39 潜水服の宇宙人
後ろを振り向くと、潜水服の、鋼鉄球みたいなヘルメットをはずした男が座っていた。
日本人とは思えない顔つきだった。全体に彫りの深い顔。髪の毛はモジャモジャで、目はぎょろりと大きく、大きく高い鼻の下には立派な髭をたくわえていた。
しかし頬はこけており、唇は白っぽい紫で、健康的ではない。そりゃそうだろう、この海底の雪の中に埋まっていたのだから。
「ああ、助かった!」
と、潜水服の男は、肩ではあはあ息をしながらいった。
「ああ、やっと呼吸できた。本当に、どうもありがとう」
深々と頭を下げる。自分は手をふりながらいった。
「いいえ、どういたしまして。お礼なら、こちらの方にしてください」
「そうですか!いや、どうも、感謝」
また深々と頭を下げる。そして顔を上げると、こちらの顔を、ぎょろりとした目で見つめた。
「おや」
潜水服の男は首をかしげた。そして、また、じっとこちらの顔を、まじまじと見た。
「はじめまして」
自分は、何をいったらよいかわからず、そんな言葉を口にした。
「やあ。はじめまして」
男は愛想よく笑った。
「こんな海底で、よくご無事で・・・」
自分はそういって、男を観察した。
全く、疑問だらけだった。気味が悪かった。海の底で、潜水服は着ているが、酸素もろくすっぽ吸えなかっただろうに、どうしてこの男は生きていたんだ?
この男は、一体、何者だ?何から尋ねていいか、自分にはわからなかった。
「・・・しかし、あなた、どこかで、お目にかかりましたっけ」
・・・こちらが質問する前に、男がきいてきた。
「いいえ」自分は驚いて答えた。
「そうですか。しかし、驚きですな。この車は。潜水艦の自動車ですか。一体、どこの国の発明なんだ。あなたたちは、日本の方のようだが」
「日本人です」
「ですか。それで日本の・・・どこかの秘密組織の方?この車も、遭遇したあなたたちも、正直申して、とても現実の世界のことと思えない」
「まったく、同感です。僕も、信じられない。僕も、まったくわからない」
「わからないって、あなた・・・」
「この、運転している彼女が、僕を乗せて、ここまで連れてきてくれたんですが・・・」
「この女性の方は、どなたです」
彼女は男の方に振り向き、困ったような顔をした。
「声がでないんです、この方」
自分は彼女を弁護するようにしていった。
「ほう・・・」男は首をひねり、彼女を見つめた。そして、驚いたような、間の抜けた声を出した。
「おや?」
「どうしました?」
自分は男の顔をのぞきこんだ。男は何か必死で考えていた。
「ああ、この方・・・、ですか。あなたを乗せてきて、くれたのは」
「お知り合いですか」
「いやあ、どうも、思い出せない。最近、とても調子が悪い」
男が何か思い出すのではないかと期待して損をした、という気分になった。自分は男にきいた。
「あなたこそ、一体、何者です。いや、こんな言い方は失礼かもしれませんが・・・ここは、おそらく、かなり深い海の底ですよ。こんなところで、一体、あなたは、何をなさっていたのですか?海底探検の方ですか?」
「え?」
男は不意をつかれたという顔をした。
自分は続けて、
「いつから、こちらにおられたんですか。お見かけするところ、酸素ボンベも何もつけておられないようですが・・・一体、あなたは、どうやって、息をしておられたんですか」
男は、痛いところをつかれた、という表情だった。自分は、たたみかけるように質問した。
「あなたは、一体、どなたです」
「私?」
そういって、男の視線は虚空をさまよった。そして片手で頭を押さえ、目を閉じた。男は深刻そうだった。続いて、念じるように呻いた。
「私か・・・」
悪いことをいってしまっただろうか。自分は男に小さな声をかけた。
「・・・ひょっとして。あなた、記憶喪失ですか?」
・・・・・つづく




