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茜編②

茜編二話目。

少女じゃなくて名前で呼びたい。


 草木が眠る、丑三つ時。誰もが寝静まる時間。

静寂が支配する世界で、とある部屋のドアはきぃと微かな音をたてて開く。

夜中とはいえ、本来なら点灯しているはずの街灯も、信号機も明かりは灯っておらず、ここが町中であるということを忘れさせるように、夜空では月が、星々がきらめき、町はほのかに明るい。

それはこの部屋にも言えることで、カーテンが開け放たれた窓の側は明かりがなくとも何があるのかは分かるぐらいには明るい。だが、決して空が曇り、明るくなくとも、数年の間ほぼ毎日と言っていいぐらいに訪れ、繰り返された行動は、真っ暗闇のなかでも行うことができる。

今までも、これから先も、この地獄が終わらない限り、習慣となってしまった行動は終わることがないだろう。最早、この行動こそがやらなければいけないことを思い出させてくれる。

あの時取った行動を、

あの時選択した未来を、

あの時決断した運命を。

後悔していないかと言われれば、嘘になる。

最初の頃は、何故私が、何故他人じゃなかったのと誰かを恨み、泣いたことだってあった。

でも、結局は笑っていて欲しいから。

出来なかったことを、代わりにやってほしいから。

戦う理由なんて、それだけで十分だった。

本棚の上にある、寄り添った双子の熊のぬいぐるみをそってなでる。

「ただいま」

そう呟いた声は、誰に届くこともなく霧散する。

返ってくる言葉も、ましてや返してくれる人もいない。だが、毎日言わないと忘れてしまう気がするから。

窓辺に近づき二階から外を見下ろすと、ここからすぐの十字路に黒い影が渦巻いているのが見えた。

対極のバランスが崩れ陰に寄ってしまった世界で、太陽の光が差さない夜はさらに陰の気は力を増し、黒い影も強く、多くこちらに現れる。放っておくと、ますます陰は強まり、やがてぎりぎりで踏みとどまっているこの世界は飲み込まれてしまうだろう。

窓から離れ、黒い影を討伐するためにドアに近づく。

扉を開けると、ぬいぐるみの方へ振り返る。

「いってきます」

 そう言いながら微笑むと、黒く長い髪を翻し、少女は闇に消えた。



―――4月15日 夕方 in???



 閃いた銀色の光は、目の前を覆う闇を切り裂いた。それに怖気づいたかのように、黒い影は渡達から離れ、逆に窮地を救ってくれた少女は渡達に背を向け、黒い影の出方を見ながらこちらへやってくる。

 銀色の光の正体は少女の右手に握られた30センチもないような刀だ。少女はその短刀を握り直しながら、いつでも動けるように腰を低くしている。

「そこから動かないで」

 少女がそう言った瞬間黒い影は渡達の方に迫ってきた。

「―――っ危険だ!」

「逃げて!!」

 ほとんど同時にそう叫んだ言葉は茜と重なり、渡達と黒い影の間にいた少女が影に呑まれそうになった瞬間、少女は地面を蹴る。

 最初に突っ込んできた影に右手に持った短刀で袈裟斬り、そのまま右腕を軸に右手側に来ていた影を踏み台にしながらくるりと回る。着地した場所から低い位置で影の足にあたる部分を薙ぎ払い、よろけた影は放置したまま正面にいた影を斬り上げる。

 斬り上げられた影はのけ反っただけで霧散しなかったため、少女は一歩踏み込むとそのままのけ反った影に追い討ちをかけて霧散させる。

 その後も少女は刀を閃かせながら影を倒し、最後の一体を倒す。

「怪我はないね?」

戦っていた少女に呼吸を忘れていたかのように魅入っていた渡と茜は、少女に声を掛けられ我に返る。

「あぁ、大丈夫だそれよりも「あなたに怪我はない?」」

 渡の言葉を遮るように、茜がかがんで少女に目線を合わせながら少女に近づく。

 弟がいるというのもあり、10歳ほどの見た目の少女との会話に慣れているようだった。

「うん、大丈夫」

 近づいた茜に驚くように、少女は少し下がる。

「ここは何だ?さっきの襲ってきた黒いのは何だ?」

 茜を少女から話しながら、渡は少女に問うた。

「…ここは人がいなくなった空っぽの世界、さっきのはこの世界を消そうとする影」

 しぶしぶといった様子で少女は答える。

「空っぽの世界…?」

「もういい?ここは危険だし、もうじき日も暮れる。さぁ元の世界に帰って」

「帰るって言っても、どうやって帰ればいいの?」

 茜がそう言うと少女は少し驚いたような顔をする。

「そのブレスレットがあるでしょう?」

「ブレスレットって…」

 少女が指を指したのは、左手首にはまっているブレスレットだ。

 最初に見た時より、少し水晶が濁っている気がした。

「これでどうやって帰るんだ」

「そのブレスレットは――様の目印。――様が加護を与えるための、ね」

「加護?」

「そう。おまじないをやる時は、紙とペンで――様に誰が行うのかを伝えなきゃいけないけど、それが目印になるからブレスレットさえあれば唱えるだけで「ねぇ、ここに私の弟、陽太はいる?」」

 茜がブレスレットに触れる。

 少女はちらりとブレスレットの方を見た。

「…いるだろうね。おまじないが導いたのなら」

「どこにいるの!?」

「おい茜!」

 少女に掴みかかる勢いで問いかける茜を渡は少女から引きはがす。

「そのおまじないが、導く先に。なんとなくこっちの方にいる、っていうのが分かると思う」

「生きて、いるのか…?」

 おそるおそるといった様子で渡は少女に問う。

「そのおまじないが導くうちは。そうね………あと10日は生きてるんじゃないかな」

「探さないと「見つけてどうするの?」――え?」

 踵を返し、陽太を探しに行こうとした渡達の背に、少女はそう問いかける。

「おまじないが導いたのなら、あなたの探し人はここにいる。だけど、あなたと再び会うことを探し人は望んでいない」

「それはっ「なんでそんなことを言うんだ?」」

 渡は少女と向き合う。

「行方不明になった子を探すというのはダメなのか?」

「渡!」

 渡が少女に詰め寄るのを止めるために茜は渡を呼ぶも、渡は止まらない。

「何も知らないくせに、分かったように言うな!!」

 少女の真正面に立ち、渡は少女を睨みつける。

「何も知らない?知らないのはそっちでしょ」

 そう言うと少女は渡に足払いをかけ、渡に尻もちをつかされる。

「っ何を!?」

 渡と、渡を支える茜の左手首をぐいとひっぱり、その手を少女は無理やり重ね合わせる。「――様、――様、(ひずみ)と我との縁」

「おい待て!」

 少女はおまじないを唱えるのを見て、何が起こるのかを察した渡と茜は少女の手を振りほどこうとするも、少女が唱え終わる方が速かった。

「再び結びたまえ」

 少女がおまじないを言い切ると、渡と茜の姿が消える。

 道路には、前から少女しかいなかったかのように静まり返っていた。



 ばちばちと突然聞こえてきた音に、渡は思わず瞑っていた目を開く。

 そこはさっきまでいた道路で、側にあった電灯が数回明滅を繰り返して点灯する。さっきのばちばちという音は、この電灯が点く音だったのだろう。

「戻ってきたの?」

 隣にいる茜はぽつりと呟く。

「たぶん…」

 周りを見渡せば、さっきの少女は消え失せ、左手首にあったブレスレットもなくなっていた。


アクションシーンがもっとうまくなりたいなと思いましたまる

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