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茜編③

茜編三話目。

説明会になるんですが、ちょっと長くなりそうだったので分割。

次回の話がこの世界について~RPGで言ういわゆる戦闘チュートリアルまでいけるかなって。

「どうして………」

思わず唇を噛み、顔を伏せる。

人の気配が全くしない、静まり返った路地。だが、曲がり角の辺りから再びじわりと影が現れる。

「これが運命だと言うのなら、運命はやっぱり残酷ね」

顔を上げ、影の方を見ながら短刀を構える。

「そう思うでしょ?




───(神様の名前)」


たんっと軽く地を蹴る音と共に、少女は影に向かって短刀を振り上げた。



―――4月16日 昼 in元の世界・学校



「おはよう渡。といってももうすぐ昼だけど」

 4限の授業終了後、担任がホームルームを行うため教室に戻ってくるまでの少しの時間。その間にお手洗いへと行っていた渡は、自身の教室に戻る時に隣のクラスである茜に声をかけられた。

「眠そうね」

 いかにも寝起きですといった顔をしている渡を見て、茜はふふと笑う。

「眠れなかったからな、昨日は」


 あの不思議な世界から戻ってきた渡と茜は、あのあとすぐにお互いの自宅へと帰った。

しばらくあの出来事が夢だったのではないかと、携帯に入れているアプリで話し合ってみたものの、お互いに結論が出ることはなかった。

 弟があの場所にいるかもしれない、探すために焦っていた茜は大丈夫だったのかと送ると、「あの女の子があと10日は大丈夫って言ってたの。だから、まだ大丈夫なんだって心の余裕ができた。あの子のこと何も知らないのに、あの子が言うなら大丈夫なんだってそう思うの」と返信が来た。

 確かに初めて会ったはずなのに、どこか初めてという気はせず、どこか安心できるような気がしたのはなぜだろう。

 ベッドに寝転がり、本棚の上にあるぬいぐるみをぼんやりと眺めながら一晩考えても、その答えが出ることはなかった。


「もう一度、行ってみようと思うの」

 茜の声に、考え事に没頭していた渡は意識を浮上させる。

「あの世界にもう一度行けば、何か分かるかもしれない。それに、あそこに弟がいるのなら…」

 茜が俯き黙り込む。

「そうだな。行こう、放課後にでも」

 渡の声に茜は顔をあげて嬉しそうに笑った。そして、廊下の向こう側に姿を現した自身のクラスの担任を見つけると、もたれかかっていた廊下の壁から背を離す。

「一旦家に帰って昼ごはんを食べて、そしたら渡の家に向かうわ。また放課後」

 茜はそう言うと自身のクラスに入っていった。


 午後二時頃、渡の家にやってきた茜は細長いなにかを包んだ袋を持っていた。

「なにそれ」

「一応ね。使わなければそれに越したことはないんだけど」

 渡は首を傾げつつも茜を家に上げる。

 リビングに茜を残し、渡は2人分のお茶を入れたグラスを持ってくると、テーブルをはさみ向かい合うように座った。

 茜は渡が座るのを待ってから口を開いた。

「あの世界の行き方、分かる?」

「………導きのおまじない」

「やっぱりそれしかない、よね」

 あの世界に行く直前、公園にて行ったおまじない。それしか思いつかなかった。

「あの女の子が私たちをこちらに戻すときに使ったのも、導きのおまじないだった」

「試してみる価値は、あると思う。紙とペンを持ってくる」

 渡は立ち上がると、リビングを出て自身の部屋に入る。

 紙とペンならリビングにも置いているが、推測が正しく、このまま外に出るのであれば、戸締りや上着やら、準備したかったからだ。

「まだこのぬいぐるみ置いてたんだ」

 後ろから声がして振り返れば、茜がぬいぐるみの前でかがみ、ぬいぐるみの頭を撫でていた。

「なぜか捨てられないんだ」

 男子高校生の部屋にぬいぐるみなんて可愛いものを置いており、それをたまに遊びに来る友達にもからかわれたことがある。それでも、なぜかこのぬいぐるみは手放すことを、見えない場所にあるだけで、不安になってしまうのだ。

「いいんじゃないかな。これ渡の誕生日プレゼントにってお父さんから貰ったんだ~って、あの時自慢してたよ」

「あの時?」

「あぁそうか、渡は覚えていなかったね。もう十年ぐらい前になるかな」

 渡には十歳までの記憶がない。

 茜と出会ったのは病院のベッドの上で、「はじめまして」と声をかけた時、茜はその場で泣いてしまい困ったのを覚えている。

 茜はそれこそ幼稚園の頃から一緒にいた友達で、幼馴染で、記憶を失った俺を、「じゃあまた友達になろう!」と声をかけ、笑いかけてくれた。

 たまに、俺が記憶をなくす前のことを思い出しては、懐かしそうに、寂しそうにするのがとても悲しく思えた。

「記憶をなくしても、大事にしたいって心のどこかで思っているのなら、大切にすべきだよ。それが渡にとって大切なことなんだ」

 そういって茜は寂しそうに笑った。


 リビングにあるテーブルの上に、円を書いた紙を置き、ペンでぐるりと手首を一周させる円を書いた手を渡と茜は重ねた。

 一応念のためと戸締りをして、茜は持ってきていた荷物を担ぎ、お互いが呼吸を合わせて目を見つめ、口を開く。

「「――様、――様、陽太と我との縁、再び結びたまえ」」

 目を瞬かせて辺りを見回すが、何か変わった様子はない。だが、

「ブレスレット…」

 茜の言葉に視界を下ろせば、手首を一周する位置に書いた円は消え、その代わりに昨日と同じ水晶の付いたブレスレットがはまっていた。

「上手くいったみたいだな」

「やっぱり導きのおまじないが鍵だったみたいね」

 二人は顔を見合わせると同時に立ち上がる。

「昨日のあの女の子、今日も会えるかな」

「どうだろう。いろいろ知っているみたいだから何か教えてもらえるといいんだけど」

 リビングを出て廊下を通る。

「もしかしたらあの女の子、ドアの向こうにいたりして」

 三和土に座り、ショートブーツのジッパーを上げながら茜はにやりと笑う。

「そんなことあるわけないだろう」

 茜が靴を履くのを待ちながら、右足のつま先でトントンと叩き、渡は玄関扉の取っ手を捻る。

「どうして来たの?」

渡がそのまま玄関ドアを押し開けた先には、昨日の少女が立っていた。

「なんで………」

昨日いた場所でもなく、何故こんなにピンポイントで家の前に出待ちよろしくいるのか。

「虚に来る人なんてそもそもいないのよ。こっちに来たら感知できる」

「ねぇ、その虚って何?そもそもあなたは誰?」

茜が渡の後ろから顔を覗かし、少女へと問いかけると、少女は黙り込む。

「よし、自己紹介しましょう。さぁ入って」

黙り込んでしまった少女を見た茜はパンと手を叩くと渡を押しのけて少女の手を掴み、ぐいと家の中へ引き入れる。

「え、あの」

「俺の家なんだが」

「私の家に行くよりここの方が近いじゃない。お茶…は出せるのかな」

茜は靴を脱ぎ廊下に上がると、くるりと少女の方へ向き直る。

「さぁ、あがって」

少女は三和土で立ち尽くしていたが、茜の笑顔に気圧されしぶしぶと言った様子で靴を脱ぐ。

流石に手慣れているというかなんというか、茜は強いなぁとぼんやりと思いながら、渡はリビングへと案内する茜と、茜に引っ張られている少女のあとを追った。


リビングにて、少女とテーブルを挟み向かい合うようにして、渡と茜が座ると、茜が口を開いた。

「私の名前は宗条 茜。茜って呼んで」

「「………」」

にこにこと笑う茜は少女に向かって右手を差し出す。

少女はその手を見て、茜を見て、渡の方を見て、またもう一度茜を見てから、恐る恐るその手を握る。

「あ、茜…よろしく…」

「うん!よろしくね!」

少女の手を握り返し、茜はぶんぶんと手を振る。

記憶を失ってしばらくは、自分も少女と同じく振り回されていたなぁと渡もぼんやりと思い返しながら、脇腹をつついてくる茜にちらりと視線を投げてから、少女に向き直る。

「神代 渡。茜と同じく、渡で」

そこで切ると、茜から視線が突き刺さる。それに促されるように、渡は少女に向かって手を差し出す。

「よろしく………」

少女は渡の方をしばらくじっと見つめる。それに渡は何か間違えたのか?と冷や汗をかくが、そのままで待っていると、少女はゆっくりと渡の手を握る。

「よろしく、渡………」

そのままお互い黙ってしまい、なんとも言えない空気になったところを、茜は察した。

「ねぇ、あなたの名前はなんて言うの?」

「私?」

少女はひとつ瞬きをすると、ゆっくりと口を開く。

「私の名前は、…くるみ。2人と同じで、呼び捨てで…」

「そう、くるみって言うのね。よろしくね」

くるみは恐らく名前で、苗字はと疑問に思ったが、わざわざ言わないところを見ると何か事情があるのだろうかと考えてしまう。だが、茜は即座に触れるべきではないと判断し、安心させる笑顔を見せる。

「それで、聞いたいことがあるんだけど」

「この世界について?」

先程まで少し引き気味だった少女、改めくるみは、茜が言った言葉にすっと真剣な表情になる。

「いいのか?教えて貰っても」

渡が姿勢を正しながら問う。

「構わない。それに、方法を知ってしまったのなら、また来る気でしょう?それなら予め言っておいた方が、何も知らないより多分マシ」

「方法って、導きのおまじない?」

「やっぱりあれがこっちに来れる方法だったんだ」

「ちょっと違うけど、そうだね」

「ちょっと違う?」

うん、とくるみは頷くと、渡と茜の手首に付けられたブレスレットを見る。

「そもそも、導きのおまじないをどういう風に認識してる?」

「認識っていうか、そうだなぁ」

「俺は導きのおまじないは茜に教えて貰った」

茜はおまじないとか、わりと好きだったからねと言いながら渡は茜の方を見ると、茜は顎に手を当てて記憶を探っていた。

「導きのおまじないでしょ…?わりと最近できたおまじないみたいなの」

「最近?」

「うん。いつの間にか私達が小学校高学年、あぁそう、渡が記憶喪失になった辺りぐらいから聞き始めたおまじないなの。この街の神様の名前をおまじないの中で言うから、古くから伝わるものかなと思ってお母さんとかおばあちゃんとかに聞いたけど知らなくって」

「俺たちの周りで突然出てきたおまじないってこと?」

茜はブレスレットに右手で触れながら頷く。

「導きのおまじないと言っても、他に似たようなおまじないはいくつかあるから、それと混ざっちゃって新しくできた。みたいなのはあるし、最初はそれの1種かなと思ってた。実際導きのおまじないを使って、導いて欲しい所まで誘導してくれるなんてあるけど、おまじないだもの。私は気休めぐらいにしか思ってないけど、受け取り方は人それぞれよ」

「………おまじない好きなのに、あんまり信じてないの?」

黙って聞いていたくるみが、少し驚いたように茜を見る。

「星占いとか、興味深いとは思うけど信じないんだってさ。俺も未だによく分かんない」

くるみの言葉に頷きながら、渡も茜を見る。

「全く信じていないわけでもないけどね。実際導きのおまじないの結果ここにいる訳だし。実際に私が体験したことじゃないとあんまり信じられないだけなの」

「超常現象とかは、あんまり信じない方なんだ」

「この目で見たら信じるわ。少なくとも、このおまじないは、この世界は、現実なんでしょう?」

茜はくるみを見据える。

「───導きのおまじないは、確かに数年前に突然できたおまじない。効力は、と言っていいのか微妙だけど、名前の通り導いてくれるおまじないよ」

 くるみは一旦そこで区切ると顔を伏せる。

「別れてしまった二つの世界を行き来するための」



今回の話と、戦闘チュートリアル手前の話までは書けていたんですが、世界観についてどこまで最初に開示するかで悩み時間を割とくってしまったので、ひとまずここで一区切り。

ぶっちゃけ長くなりそうだったのはある。


名前を出せました。

くるみちゃんです。

渡、茜ときたら、この子も漢字一字で考えるべきだったのでは?とか思いました。(初期候補は雪ちゃんでした)


本編考えなきゃいけないのに、全く関係のない番外編(もっとお話が進んだ頃)思いついたりしてる。

頑張って本編進めるんやぞ私。このペースだと番外のお披露目は来年だぞ...

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