日々と幻想と、私。
絵本
出口へ向かう子供はわらっている
明るく優しい陽射しに照らされ、
ひとり、ひとり、吸い込まれて。
異国の笛の音はおとぎの草原を、
見知らぬ楽器は深海の鼓動を、
すべては母の声ではじまる
子供は皆、母のもの。
だから誘えよ。
子をさらえよ。
入り口さえ目立たせておけば、許されることなのだから。
桜のしたに
中目黒は汚い。
蔦屋書店だとかスープストックトウキョウだとか
代官山めいたおしゃれを入れても、なかめはなかめ。
ほら、警備員さんが困っている。
無理矢理横断歩道をわたっていった、歳のいった女のひとに若い男のひと。
桜の満開はまだ先なのに、ひとの集まりの多い事。
咲いている桜の数よりもはるかに多い、集団め。
わたし、決めた。
わたしの桜まつりは早朝にひとりで行うわ。
それで咲きこぼれる花びらの数々を集めて届けたい。
わたしだけのあなただから。
どうでもいいようなこと
私のなかで膜がつくられているのか、
それとも誰かが私に触れないよう、薄い膜をはっているのか。
分からない。
でもたしかにその膜はある。なんか、湯葉みたいだよね。
って話しかけてくれるような、
そういう、どうでもいいような話をするあなたを
わたしはまだ見ていたいのです。
ぴぃちクリームソーダ
午後の喫茶で珍しいのを見つけた。
かき氷のいちご、メロンと同じ、色感は自己中心で高圧的。
さくらんぼは作り物のよう。
味のない、可愛らしいオモチャのようで。
宝石箱のなかの 透明な石とかイルカのかたちの宝石、
こどもの頃 宝物がそんなささやかなものだった女の子は 今年18。
完璧な姿なんて一瞬で終わる飲み物だけど、
お願いソーダ
バニラアイスクリームの表面の ざらざらしたところ
ずっとかたちを変えないでいて。
炭酸はほどほどが好い。
生意気、勇敢、おしゃべりな性格はたまに誰かを傷つける。
弾けてぱちぱち ピンクがぱちぱち
色んなものがぱちぱち消えて、いつか少女に訪れるのはあんまりな仕打ち。
人型
美水のなかで人形劇の人形が
ずらり並んで 気味悪くほほえみ
術師は簡易プールで動かない
まどろんでいたら死んでしまった、まるで体の弱い静かな生き物のように
行儀の良い すました顔の人形たちはそのうち
ケタケタ笑いだすでしょう
役割を忘れたものたちの、淋しさ
目は鈍く光って、一点を見据えているらしい
午前11時、なにも知らない小さな男の子がやってきて、ぴゃっと悲鳴を上げた。
べっこう飴の家
子どもが嫌いそうな家だ。
なぜか小さいときは洋風なものに憧れる。
この地階の小さな家にはびいどろがいっぱい詰まってる。
ざざぁ ざざぁ、ざざざざざぁ
波の音が聞こえる。
おばあちゃん手作りの不思議な箱から。
古い家のなかの臭気、いやに冷たくて汚なそうに思える廊下。
緑と深オレンジの珠暖簾に不快を覚えた頃の私が。
小渠の行先をひとりで勝手に心配した頃の私が、見知らぬ人の家の前で。今。
ビー玉でも舐めてみようか。そしたらきっと叱られるから。
私、餡子はまだ苦手だけど、羊羹は少しいけるようになったのよ。
ゆめ夢
騒がしい
騒がしいネオンの街がやってくる
果てな、闊歩するは見物客か、住民か
てっぺんの宇宙船にははりぼての芸術が、
庶民の幸福が祀られて、カチカチカチ価値ぴかぴかヒカル。
こっちを見、睨んだりにやけたり、何やら忙しいフグや金魚は紙風船
崩れた赤着物を摺る裸女 下品を崇めよ学生服
さ、露店の猫に惹かれた旅行生徒がちょうど消えた宵時
我慢強い朝顔を無理にこじ開け灯篭にしたそんな夜
通天閣のバンジージャンプに死して笑むはフランスの少女人形
くだけた手足をほおばる浮浪者のじいさんにだけ
見えたつつましく揺れる黄金の薔薇
公園にて
水色が どこまでもうすくのび広がった午後の1時
木のベンチの背もたれには 青銅でできた薔薇の刺繡
僕が駆けてゆく先に やわらかい確かな感情
白いシューズを履いた女の子は君
白いパーカーに緑色のスカート姿は君
太陽にひかるスプリンクラーのしずくが
きらきらと昼の星だといって 本を閉じて笑顔になったのは、君
晴れた空がくれる風に
揺れる花の群れと僕たちは
今、昼の惑星のどこかで 一緒にわらってる
君の恋人は 君が持つしろい空気をどう捉えているのだろう
僕のとなりに歩くのは 以前には思いもしなかった 少女だ
「おしゃべりが上手になったね」だなんて口に出来ないほど
大人になった君と歩く時間はやさしくて それはまるで絵画に流れる
君と僕は
公園を歩くだけの 変な関係だけど
目を見つめても 当たり前のように首を傾げて微笑む君に
僕はどうするのが正解かわからなくて
前の君みたいに笑い返すよ
君は駆けてゆく
売店のソフトクリームを食べたいだなんて
随分とやんちゃになったもんだ
溶け
女神のかたちをした石造が
遠くで白く、砂丘に揺れ
彼女は蜃気楼のように、それでもはっきりと目に見えて
日は乱れ、狂い呪いながら
いまいましく私を照らしつける
ぐらぐら痛む眼球に
緑地の水が注がれることはこの先ない
息のできない砂漠の熱量にうなされ絶える者
もう見えない美しい砂漠の星を思い出すこともなく
夜の白砂に光るちいさい花は既に無く
とけて とけて とけていく
肉体のどうしようもないきたなさ
肉は美しい透明な砂のうえで腐れていく