そんなに珍しいの?
侑芽は少し傷ついたオーボエを嬉しそうに持ち、桃子と萌と楽器庫から出ると、一斉に視線が集まった。
『ひぇっ、初心者ってそんなに珍しいの?』
ヒソヒソと声が聞こえる。
「あの子でしょ?」
「そうそう、確か名前は───」
「侑芽ちゃん!」
と、1人の少女が立ち上がった。
ピカピカのアルトサックスと呼ばれる楽器を手に持った彼女に見覚えがある。
「さっきの初心者って侑芽ちゃんだったんだね! ほんとに吹部入ったんだ!」
「あ、亜紀ちゃ……先輩」
思わずちゃん付けしてしまいそうになった亜紀は、侑芽の姉、宇美の友人である。
と、彼女はこっちに向かってきた。
「なに? 知り合い?」
と、桃子が顔をのぞかせた。
「ほら! この子、宇美の妹だよ! 佐伯 宇美!」
「えっ!? 宇美ちゃんの?! 気づかなかったぁー!」
と、桃子は驚いた。
亜紀は侑芽の持っている楽器を見て、
「オーボエになったんだ! 頑張ってね!」
と、ニコっと笑った。
ガラッ!
「「こんにちは!」」
部員が立ち上がり、礼をした。
「あ、やば!」
と、亜紀は急いで自分の席へと戻って行った。
「あ、侑芽ちゃんこっち」
桃子に手を引かれ、イスを持ってきてくれた。
「号令」
「よろしくお願いします!」
「「よろしくお願いします!」」
瑞樹の後に皆挨拶をし、侑芽も一緒に礼をした。
「えー、みんな知ってるように吹奏楽部顧問の森野 真紀子です」
「「よろしくお願いします!」」
森野は、20代後半の若い女性だったが、決して優しそうではなかった。むしろ、何気なく怖いオーラが漂っていた。
「みんな小学校の頃と楽器変わってないの? フルートの誰がオーボエになった? 部長」
「皆同じ楽器なんですけど……」
と、瑞樹が侑芽をチラッとみると同時に侑芽と森野の目が合った。
「──あんただれ?」