表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
東野中学校吹奏楽部  作者: 星野 美織
きらきらひかる私の音色
24/24

藤本 梓という太陽

「20分時間おいたら吹けなくなるうぅ? なんだそれ、聞いたことない」

と、森野はまたぐっと背もたれに倒れかかった。

「す、すみませ……ふぐっ」

「だーかーらー。謝る前に返事しろっつってんの。覚えてないの?」

森野が片手で侑芽の頬を掴んみ、ぐるぐると回す。そしてその手を離すと、じわりとその部分が熱くなった。

「は、はひ……」

頬をさする情けない侑芽を見てひと息つき、呟いた。

「あんたさぁ……いまはダメダメだけどさ。もっとこうだって否定されたら、あんたはそのお得意な“ごめんなさい”で誤魔化して生きていくの? それなら“はい”って従っといてさ。相手はあんたの事を思って指摘しているんだから、はいって言わないと。謝って生きていく人生なんてつまんないでしょ?」

「はあ……」

ぽかんとする侑芽が気に入らなかったのか、森野はムッと口を尖らせる。

「はぁ。もういいよ。テストの気分じゃなくなった。ほら、フルートのとこ行ってきな」

「え、あ……はい! ありがとうございました」

ペコリと頭を下げる。

「今度は、明後日の5時から。親御さんには最終下校過ぎるって言っときな」

「は、はい。失礼します」

あせあせと出ていった侑芽を見て、森野は深くため息をついた。

「大丈夫なんだかなあ」

ガラッ。

フルートパートの練習場所である3年1組の教室の扉を開けた。

「あっ、侑芽ちゃん! おかえり」

明るく振り向いたのは、1年生3人の中で最も話しやすい梓だった。

「おかえりー」

「……おかえり」

他の2人はまだ張り合っているようで、離れて練習をしていた。

「あ、えっと、その……た、ただいま」

家族でもないのに“ただいま”なんて言葉を使うのが少し照れ臭く、ぎゅっと目を瞑った。

「先生のレッスン、怖かったでしょー。お疲れ様!」

ニコニコと侑芽の右手を包み込む。

「あ、あの……ありがとう」

「んー? なにが?」

「その……練習誘ってくれて」

かーっ、と頬に熱が伝わる。

「ああ、いーよいーよ! あたしも侑芽ちゃんと練習したかったし」

ニカッと歯を見せ爽やかな笑顔を見せる。明るく振る舞う梓が眩しく見えた。

「ねぇ、吹いてよ、オーボエ。聴きたいな、侑芽ちゃんのオーボエ」

「え! でも、私下手っぴだし……」

「えーお願い!」

パチン、と音を立てて手を合わせる梓を見て、思わず困惑した。

「えっと……」

「───あず。侑芽ちゃん困ってるよ」

そんな中静かに声を上げたのは、詩織だった。

「うー。わかったよー。てかしおりん、まだ怒ってるの?」

「怒ってない!」

「またまたー。怒ってるんでしょ? ごめんてばー」

梓はからかうように人差し指で膨らんだ詩織の頬をつついた。

「なっつんも! あたし、4人で合わせたーい」

と、ぐるぐると体を揺らした。

「別に……あずがそこまで言うならいいけど」

照れた顔を見せる夏美。いつもはこんな顔を見せない。侑芽は気付いたのだ。

何故詩織と夏美が犬猿の仲なのに、いつまでも同じパートでいられるのかを。

梓が、2人の間に入って笑顔でいるからだ。そう思うと、やはり梓が眩しく見えた。

「きらきら星! きらきら星しよーよ!」

「しょうがないなあ」

クスリと詩織が笑う。

「い、いいの? 私に合わせて……」

「あんた、バカなの」

夏美の毒舌に怖気付く。

「あんたに合わせたいの。みんな」

「わあ、なっつん、ツンデレ発動?」

「う、うるさいな」

また梓が隣からからかう。詩織はくるくるとメトロノームのネジを回し始めた。

「じゃあ、最初から合わせよっか」

ニッと笑う梓。

「なっつん、合図おねがーい」

夏美もはいはいと呆れたように返事した。

「いきます」

「「はい!」」

「1、2───」

「あああ───ッ!」

突然の叫び声にビクリと体を震わせた。

「な、なに。どうしたのあず」

「やー、侑芽ちゃんって、なんか呼び方長いなーって思ってたんだよね。じゃあ思い出した、あだ名まだ決めてないよね!?」

と、梓は自身の頭に手を置いた。

「んーとね、えっとー、えーっとー……侑芽ちゃん……侑芽……ゆめぴ……ゆーぴ……ゆーぴ!!いいじゃんゆーぴ!」

ぴょんぴょんと1人はしゃぐ梓。

「じゃあ、ゆーぴで決定だね」

と、詩織が振り向いた。

「……うん」

あだ名の考え方が、少々雑だが、そんな所が嬉しかった。

「ありがとう、その……あず、しおりん、なっつん!」

初めて、3人の事をあだ名で呼んだ。

「……じゃあ、もっかい合わせる?」

「そーしよ!」

1人声を張り上げる梓。

誰もが信頼している彼女と、もっと話したい。

そう思った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ