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東野中学校吹奏楽部  作者: 星野 美織
きらきらひかる私の音色
23/24

吹奏楽部の定め

「向坂さんと、お、大塚さんが……」

森野は梓の話を聞き終わる前に、無表情のまま立ち上がり、スタスタと早歩きでフルートパートの部屋へ向かった。

「先輩方が木管セクしてるんです。私だけじゃ止められなくて……」

フルートの1年生の間で一体何が起こっているのだか。侑芽には全く分からなかった。

森野の歩幅は大きいのか、彼女の早歩きは梓の走りと同じくらいの早さだった。

何をどうすればいいのか分からず、準備室の扉からそれを覗いていた。

何かを思い出したようにピタリと止まり、振り返った。ばちりと視線が合った。

「佐伯、あんたも来なさい。同じパートでしょ? 吹奏楽部というものの闇を知りなさい」

「う、ぇあ、はい!」

走って森野たちに追いつこうとする。

梓の隣に来ると、彼女は侑芽の手を握った。

嬉しくなっていい状況だったのだろうか。

「うるさいなあ。マイ、マイって」

「私はあのまま引退したくなかったよ。後輩だって、マイだってきっとそうだった!」

教室に着くと、2人は喧嘩状態だ。

開いている窓から、森野が覗く。

声を荒らげる2人のあいだに森野が入った。

「一、部に、音楽を愛する者こそ集まるべし」

凛とした声に、2人の動きが止まる。

「……一、感謝の意を忘れず音楽を楽しむべし」

梓が、森野に続いた。

「一、仲間と楽器を乱暴に扱う者、部を去るべし」

それを森野の口から出された瞬間、びくりと2人は震え上がった。

「一、部を愛し、仲間を大切にする者こそ真の音色は響く。一、」

「───ぶつかり合い、分かち合うこそが仲間……、あ、」

気付けば声に出てしまっていた。

東野中学校吹奏楽部、5つの(さだ)め。

入部して1番初めに覚えさせられる、創部から52年間の伝統だ。

もちろん侑芽も、楽器を知るよりもはるか先にこれを覚えた。

全員は、侑芽を一斉に見る。

「覚えてるじゃん」

と、森野が笑った。初めて自分に微笑んだ気がした。

「あ、えと……」

笑った、笑ってくださった。

それが頭の中でぐるぐる回って、言葉が浮かんでこない。

「ぶつかり合い、分かち合うこそが仲間……。あんたたちのそれはぶつかり合い? それともただの口喧嘩?」

「そ、それは……」

「口喧嘩です。申し訳ありません」

詩織が深々と頭を下げる。

「私たちは入部してから、浮かれていました。本当に大切にすべきものを忘れてたと思います」

反省の意を見せた詩織を見て、うっ、と夏美も顔をしかめる。

「も、申し訳ありませんでした……」

「うん。次口喧嘩したらどうなるか考えときなよ」

「「はい……」」

2人とも先程までの迫力はどこへ行ったのだか。

梓がほうっと安堵のため息をついた。

「戻るよ。佐伯、あんたも」

「え、」

「楽器置きっぱなしでしょ。先輩達が木管セクしてるんだったら、パート戻っても1人でしょう? みっちり、見てあげる」

「ぅえ、」

と、手を引っ張られた。

「あ、もしレッスンが終わったら、佐伯さん、フルートに来るようよろしくお願いします!」

と、梓が大きな声で言った。

侑芽の手を引いたまま、森野は

「はいよー」

と言った。

「あ、ありがとう!」

初めて吹奏楽部の事情に深く関わり、微笑まれ、感謝を伝えることができた。

今日はなんて特別な日なのか。そう思いながら引っ張られていった。

「なんで、佐伯呼んだの」

「いや、なんとなく。なんかね、」

と、梓はふ、と笑った。

「あんまり深く漬け込んでこなかったから。いままで。だから、もっと仲良くなりたいなって、今日思ったから」

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