きらきらひかる
楽譜を手にとって、あっという間に2週間だ。
指の動きも覚えて、音も伸ばせるようになってきた。それなりにきらきら星に聴こえる。
「よし!」
「侑芽ちゃん、だいぶ吹けるようになったよね」
「はい! だいぶ慣れました」
と、またリードをくわえ、できるようになったきらきら星を吹く。
「きーらーきーらーひーかーるー」
それに合わせて萌が口ずさむ。
すると、急に教室の扉が豪快に開いた。
バシッ!っと音を立てて反作用でドアが閉まりかける。それを手で静止させたのは、顧問の森野だった。
あまりにも急すぎる登場で、侑芽はもちろん、萌も桃子も固まっていた。
「こんにちは!」
「こんにちは」
「こ、こんにちは!」
やっと桃子が立ち上がり、萌と侑芽も立ち上がる。東野吹部の挨拶の基本、立ち上がって礼をしながらハキハキと。
「楽譜もらってどれくらいだっけ」
「え、と」
あまりにもおたおたする侑芽をギロリと睨む。
焦った侑芽は、早口で答える。
「に、2週間です!」
「ふぅん……」
ジロジロこちらを見て、視線を桃子へと移した。
「羽山、楽器持ってきな。1個余ってるでしょ」
「はい!」
と、すぐに部屋を退室して走り出した。
「オーボエってさ。どれくらいするか知ってる?」
「あ、安くて40万、普通で7、80万って聞きました」
返事をせずに頷いている。
そんな話をしていると、桃子が息を切らして戻ってきた。
「ど、どうぞ」
「は?」
森野は眉間に皺を寄せた。
「あんたさ。もし自分が楽器屋で、試奏に来た人にさ、楽器ケースごとはいどーぞって渡して自分で組み立ててくださいねなんて言う?」
鬼の形相をした森野に桃子は身を震わせた。
「申し訳ありません」
慌てて楽器を組み立てる。
「すみませんでした、どうぞ」
再び差し出されたオーボエは、侑芽の持っている楽器よりもくすんだ色をしていた。
「リード」
「これでいいでしょうか」
「なんでもいい」
たまたま水に付けていたリードを渡す。
森野は唇を強引に擦り、口紅を落とす。
そしてリードをくわえ、ブレスをする。
始まった森野によるきらきら星の音色は、桃子、いや、それ以上だった。
森野の世界に心が吸い込まれる。
夜空に浮かぶ満天の星が、侑芽へと降り注がれる。
「綺麗……」
吹き終わると、ふっ、と息を吐いて、感情的だった彼女の顔面から、また無表情の森野が現れた。
「音楽はね、こういうもんよ。あなたのはただ1個1個音を出してるだけ。それを繋げて感性豊かに色鮮やかにするのがほんとの音楽」
と、森野は侑芽に向かって話しながら、桃子に楽器を返す。
「わかった?」
「はい!」
「よろしい」
と、そのまま教室を出た。
「びっ、くりしたぁー……」
と、萌がため息をつく。
「かっこ悪いとこ見られちゃったなぁ」
桃子が笑いながらポリポリと頬をかく。
「先生の演奏、感想は?」
と桃子が聞くと、侑芽の目には光の粒が沢山あった。
「星が、見えました……」
その表現に、萌も桃子も驚く。
「あっ、いえ。何言ってんだろ私……。えっと、すごく綺麗で……」
先輩2人は顔を見合わせた。
「ねぇ、侑芽ちゃん。頑張ろうよ。先生みたいな音。そんで、一緒にコンクール出よう!」
「え!」
突然で予想だにしなかった言葉に声が裏返ってしまう。
「いえ、そんな……。未熟な私がコンクールだなんて、厚かましいですよ」
「先生は立場で出る人を決めたりしないよ」
「そうだよ!がんばろ!3人でコンクールでよ!」
と、2人が侑芽の手をとる。
「は、い……」
よく分からないまま、曖昧にコンクールメンバーになりたい、そう間接的にいうと、萌と桃子は喜んだ。




