鏡 2
顔が怒っている。
レイは、後ろめたく目を伏せることしかできなかった。
「どう……して……僕の居場所がわかったの?」
途端に、相手は車イスの肘掛けに思いきり手を叩きつけて、レイが体を震わせると同時に、その場に膝をついた。
「どうしてだと? おまえが力を使ったからに決まってるだろう。さんざん探したんだぞ。どうして俺から逃げたんだ?」
ますます気まずく、目を閉じる。
「逃げたんじゃないよ。僕がいないほうが……君が自由になれると思って……」
今度は、思いきり頬を叩かれた。
「勝手なことをほざくな! 俺は、おまえのために造られた『種』なんだぞ。それ以前に、人間だったころから、おまえのお守りを命じられていたことを忘れたか?」
「だからだよ!」
レイは、情けなく声を荒げると、逆にリョウを突き飛ばした。
「あれは、父様が命じたことじゃないか。僕は友だちのつもりだったよ。なのに……父様はなにかというと君のことを使用人の息子だって差別してたんだ。それでいて、君には僕のことを命がけで守れ、なんて勝手だよ。『長』だって同じだ。妖魔に戻ったって、君の立場は変わらないじゃないか。……僕だって……一人でやろうと思えば……」
「思えば? 一人で逃げおおせるとでもいうつもりか? お坊っちゃま?」
見下すように言ったリョウは、カッとなって睨み返してきたレイの水色の瞳を平然と受け止め、一度立ち上がると、右手を心臓に押し当てて、深々と頭を下げた。
「レイハルト・イメイン様。どうかこの、リョウ・ムツキをお見捨てなきようお願いいたします。わたくしは、命の限り、あなた様をお守りいたします」
それは遥か昔、まだ二人が人であった頃に聞いた言葉だった。
二人とも子供であったにも関わらず、レイは領主の跡取り、そしてリョウは執事の息子としての身分の違いを明確に表した挨拶だったのだ。
頭を下げたままチラッと自分を盗み見るリョウに、レイは思わず苦笑した。
「わかったよ。ごめん、リョウ。これからも僕を守ってくれ。君がここに来たということは、他の『種』も僕の居所を知ったかもしれないから」
リョウの、自信に満ちた笑みが、右目の隠れた長い髪の隙間から漏れた。
「任せろ」
まるで子供をあやすようにリョウの手がレイの頭を撫でて、それから車イスを回した。
「奥がおまえの部屋なんだろう?」
「部屋にはしていないよ。この店を作っただけ。まだ、そこまで力がないから」
「今までどうしていたんだよ?」
「どうやって人から命力をもらおうか考えてた。ずっと隠れてたから最初ほどの力もなくなっちゃって」
「よく今まで生きてたな。……よし、俺が作ってやる。居心地がいい部屋にしてやるよ」
リョウは、車イスを押して、隣へのドアを開けた。