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たわむれ

悪戯の提案はリョウからだった。

「やめて欲しい先生の投票をしようぜ」

「どうやって?」

「体育館に二年生全員集めるか」

「集めるって、どうすれば集まる?特別な理由がなけりゃ借りることも出来なけりゃ、集めるったってあつまりゃしないよ」

「まずは各クラスのおふざけ屋さんに声掛けて、そいつを通じてメールしまくる」

「わかった。有権者集めはお前にまかすさ」

「その次はどうする?」

「方法だよ」

「投票じゃないのかい?」

「まともにやってたって面白くもなんともないよ」

「みんながそれならってやり方を考えようじゃないか」

「こんなのはどうかな。玄関に掛かってるクラブの掲示板。あそこに正の字を入れていくっていうのは。先生にアルファベットで一覧表作ってみんなに配っておいてさ」

「玄関じゃ直ぐにばれちゃうじゃない?」

「それに、クラブの掲示板は三年がうるさいから。

「誰かに勝手に消されたりするかもね」

「先生用の下駄箱に投票ってのはどうかな」

「どうする?」

「何かを入れるのさ。朝の七時から八時の間に。沢山入っていた先生が当選ってこと」

「どうやってわかる?入った数が」

「分かるさ。きっと職員室で話題になるから、表向きは真面目そうなユキあたりに探らせたらいいかもね」

「それで何を入れる?石か何か」

「面白いものは?」

「……」

「鉛筆?」

「……」

「一円玉⁉︎

「……」

「うまい棒」

「それだ」

「それで行こう」

「いつ?」

「一週間後の月曜日の朝」

「早速メーリングやブログで回そう」

「二年だけにな」

「なるべくならチクリそうな奴は避けて」

「有権者は百が目標」

「よし、早速家に帰ってメールしまくるか」


「誰がやろうといいだしたんだ?」

リョウの担任の加藤が怒りを抑えながら、教壇から机間巡視しながら説教を始めた。

「こういう場合には必ず最初に提案者がいるものなんだ。最初から百人が寄り集まって決められるものじゃない。そうだろリョウ」

リョウは知っていた。担任が首謀者は自分達だと知ってるということを。

リョウに限らず、タッキーもヒロも三人とも、もし疑われてもしらを切り通そうなんて思ってはいなかった。それどころか、名乗りでて拍手喝さいを浴びたいほどだった。いつ、名乗りでようかと三人は視線を送りあってもいた。

「考えてもみろ。何のために人の下駄箱、うまい棒で蓋が閉まらないほどにしなきゃいけないんだ」

教室のあちこちで吹き出す声がした。

数学の山田先生もバレンタインじゃあるまいし、それにうまい棒あんなにもらっても、って困っておられた。

「当選は山田か」

囁く声と、やはり吹き出すのをこらえて、嗚咽するに似た声が混じって、説教の緊張感とは程遠い雰囲気になっていた。

三人は同時にたちあがり、自首してでた。


校長室に連れて行かれた三人は細長いソファに座らされた。加藤先生は三人の横に立っていた。校長は窓ガラスから校庭を眺めていた。硬式野球部のボールを打つ金属音が止まらなかった。管楽器が奏でるメロディーは時折、定位置からはずれてはもどりつしていた。試合が近いのか、時折ピストルの音が鳴り響いた。

三人が腰を下ろしてから、かなりの沈黙の時がながれた。校長はゆるりと振り向き、1人がけのソファーに身を沈めた。

「加藤先生もそちらに。君達の希望する大学はどこだね?」

三人は顔を伺いあい、ヒロが最初に答えた。

「東大です」

「君はどうかな?」

タッキーが次に答えた。

「東京大学です」

「そうか。頼もしいね。それでは最後に君は?」

リョウが答えた。

「東大にしか行きません」

「わかった。再来年の春に三人揃って東大に入学してもらいましょう。もし、一人でも不合格なら、三人の卒業はみとめませんよ。落第してもらいます。いいですね」

しばしの沈黙がやはり続いた。担任は吹き出すのをこらえているようでもあった。

「それともう一つ。東大に入学しても、同じことをするように。いいかな?」

やはりしばしの沈黙ののち、

「それでは今日はこれまでということで、いいですよ。帰って。加藤先生からは三人の保護者に報告しておいて下さい」

「お手数おかけしました」

「そうそう、君達にはこれを返しておきましょう。ちゃんと持ち主に手渡してくださいよ」

校長は机の上の紙袋を三人の目の前に置いたのち、窓際に近づいて行き、今度は窓ガラスを全開にして校庭の部活風景を眺めた。

生暖かい風と、「行こうぜー、行こうぜー」の大合唱が、朝の通勤ラッシュのように部屋いっぱいに飛び込んで来たのだった。


「山田先生、これ、例の回覧」

「あっ、どうも。それにしても驚きましたね。やつらも我々と同じようなことやるなんて」

「でもやり方がいいじゃないですか。うまい棒とは。やはり叶いませんな。うちの生徒には。教師が考えることなんてこの程度なんですから」

山田の手にした回覧には、「今学校を辞めさせたい生徒一覧表…今週中、辞めさせたい理由も記入のこと」と書かれていた。

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― 新着の感想 ―
[一言] うまい棒で投票って、いかにも学生が考えそうなノリ、けど面白い、絶妙なチョイスだと思いました。 あとオチがいい。 面白かったです。
[一言] きたせんじょうさん初めまして。 「たわむれ」拝見しました。 辞めさせたい先生の投票をする、というストーリーが面白いと思いました。 そして実は、先生たちも同じようなことを考えていたというのも…
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