原稿用紙二枚、書いてみた(800字)
大切な友人様へ。
勝手に書かせていただきました。
それに気付いた時、私はまず、早起きしたことを後悔した。
そう。こんなことになるなら、わざわざ早起きをする必要はなかったのだ。
早起きと言っても、いつもよりほんの少し早く起きただけ。しかしその「ほんの少し」だって、私にとっては貴重な睡眠時間だった。ではなぜ私は、その貴重な睡眠時間を削ってまで早起きしたのか。
おにぎりを作ろうと思ったのだ。
仕事先に持っていくために。
と言っても、そこまで凝ったわけではない。ご飯は、もともと冷凍していたものを解凍しただけだ。
今日はどんな味付けにしようかと、ふりかけ類を保存している棚を漁った。散々迷った。結局、混ぜ込みご飯(しそわかめ)にした。いや、そんなことはどうでもいいのだ。
しそわかめ味のご飯も、おにぎりも、なくなってしまったわけではない。
食べられなくなったわけでもない。
私の手元、いや、私の手の上にちゃんとある。
ぺちゃんこになって。
どうしてこんなにもぺちゃんこになってしまったのだろう。
平たい。ロードローラーで踏み潰されたのかと訊きたいくらい、平たい。
無論、平たいおにぎりを作ったわけではない。むしろ私は、おにぎりがふんわりふっくら仕上がる適度な力加減で、完璧な三角形のおにぎりを作った。はずだった。
私はふっくら仕上がったそれを、一つ一つラップで包み、……鞄の中に直接放り込んだ。
お弁当箱やタッパーなんて必要ないと、思っていた。
お昼、休憩時間。私はおにぎりを見て愕然とした。
ぎりぎり、三角形。しかし、『立体感』という言葉はそこから消えうせていた。
ああそういえば。こんな感じのお菓子があった。
おにぎりとせんべいが融合したみたいなボディの。
おにぎりとせんべいが融合したみたいな商品名の。
私のふっくらおにぎりどこ行った。
私の睡眠時間を返せ。
今なら、書ける。
おにぎりがぺちゃんこになっていた、この事実だけで原稿用紙二枚はいける。
八百字は書けるよきっと。
ああ、私の、おにぎり。




