その3 ~1年後~
その日、マカは朝から四苦八苦していた。
何をどうすれば良いかわからない。でもはやくしないと・・・
ダダダダダダダダダダダダダダ
あぁ、またあの足音だ。
また一回り大きくなり、足音も重くなってきたユタが全速力でマカの家の扉に突進してくる。
「 マカ何やってるの?はやく返事してよ~」
身体は大きくなったけど、中身は1年前のあの日とまったく変わってないなぁ。
そんなことを思いながら、マカは自分の手の中にある小さな箱のような物を適当にいじっていた。
───そもそも携帯電話とか言われても。
電話なんてものさえ使ったことないのに、いきなりそれに携帯とかいう言葉がついたって分かるわけないじゃない。
さらにメールだとかカメラだとか。なんでこの子はこんなの使えるのかしら。
1年前のあの日。お目当ての犬を連れて帰り一緒に戯れてるマカの家に戻ってきたユタは、なんと顔が人間になっていた。
マカはわけが分からず恐慌に陥ったが、これはいわゆる「特殊メイク」というやつだった。
どうやら本物と見間違えるほどのスリーピーを作った人間の業に興味を持ったらしい。
アンテナもケーブルもないのにTVを拾ってきて、単なる飾り物として置いて満足するようなオウルベアだが
ユタは偽スリーピーを見て、機械をスリーピーの姿に変える事が出来るなら自分の顔や皮膚も自由自在に変えることができると思ったのだそうだ。
耳や毛の色、形にとても気を使うオウルベアには放っておけない技術だったのだろう。
あの日以来、ユタは足しげく人間の街に通った。
最初こそ2メートルを超える巨体での脅しのようなものであったらしいが
ユタ自慢のかぼちゃ畑の実りを持っていったところ喜んで色々教えてくれるようになった。
それまで使い方にはあまり興味のなかったTVや蛍光灯、はてはその動力のためにソーラー発電機までユタは村に持ち込み
今までオウルベアを害獣としか見ていなかった人間も、ユタのかぼちゃやマカの果物にすっかり参ってしまったようで、両者は頻繁に交流することとなった。
しかしマカは不満だった。
新しいものばかりがどんどん増えていくばかりでろくに使い方を覚える間もない。
あれ以来何故かますます自分になつくようになったユタに振り回されながら、今は携帯電話のメールを必死になって覚えているところだ。
(はぁ、私は前のままでも十分良かったんだけどなぁ・・・)
目の前でにっこにこしながらマカからの返信を待つユタに見つめられ、マカは携帯の画面とにらめっこせざるをえなくなった。
「 カリンから聞いたんだけど、今はビスタってのが最先端らしいよ。なんかやたら重いらしいけど僕に運べるかな?
DSってのも面白いらしいんだけど、どっちがいいと思う?」
(あ~ユタちゃんのかぼちゃケーキ食べたい)
人間への贈り物のため、すっかり食べれなくなった極上のかぼちゃケーキを思い出しながら、マカはぼ~っとユタのとりとめのない話に耳を傾けていた───
おしまい。
スリーピーの話、これにて完結です。
このオウルベアシリーズ、バルビレッジというコミュニティゲームを
基に書いているので、スリーピードラゴンも実際に居ます。
ゲーム中では時折まばたきしていますがお話中では寝っぱなし。まぁニセモノですからね。
あーニセモノかぁ、と落胆するどころか
凄いニセモノ!とテンション上がって人間に突撃していくようなユタ。
書いてて楽しいキャラが出来上がりました。
このシリーズ、まだまだ続きますよー