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その1

マカはあきれ返って、自宅の目の前にどんと置かれたそれに見入っていた。


ぽかんと開いたその口は尖っており、ふくろうの嘴のようになっている。耳は頭の上に尖り、ちょうどウサギのようだ。

顔の部分の肌は白いが額から上、首から下は橙色の体毛に覆われている。

そもそも立ち尽くしたその身長が3メートル近いというのだから人間ではない。

まるまるとした身体にかわいいチョッキを着ており、遠くから見ればただの小熊程度にしか見えないだろう。




彼女はオウルベアという種族だった。




「 あのね・・・ユタちゃん。なるべく簡潔に言って。

 これは何?なんでこれをわざわざウチに持ってきたの?」

玄関わきの小さなテラスから、椅子に腰掛け頭を抱えたマカは小さな友人に話しかけた。

・・・小さな友人と言ってもその相手も2メートルは越えていたが。

この子が来たおかげで優雅なお昼が台無しだ。前から欲しかった白いテーブルと椅子を手に入れ、上機嫌で紅茶を飲んでいたというのに。

決して嫌いではない。むしろ好んで世話を焼き、一緒によく遊ぶのだが。

時に誰の手にも余る村一番のいたずらっ子であった。ユタ。彼もオウルベアだった。ただし体毛が緑色である。

彼は褒められたとでも思ったのだろうか。顔を上気させてマカ邸のテラスに駆け上がると、くちばしをぐんと突き出し、両手をばたつかせて自慢話を始めた。




「 何って?マカも聞いたことあるでしょ。スリーピーだよこれ!

 ただのおとぎ話かと思ったけど、本当にいたんだ!

 ちょっと散歩に出かけたらすぐそこの人間の街の外れですやすや寝てたんだよ」

どうやら褒められていようといまいと関係ないらしい。とにかく興奮しきっている。

( ・・・ふむ。スイッチの入っちゃったユタちゃんにしては簡潔なしゃべり方ね、一応。)

ユタの飛ばす唾が紅茶に入らなかったか心配しながら、マカは指差された方向に目をやった。


山を越えて持ってきたと、ユタが力説するその物体はマカの綺麗に手入れされた芝生の庭の半分以上を占領し、ゆっくりと胸だけを上下させ、眠っていた。

オウルベアという巨大な種族でも、これは容赦なく巨大だと思う。


( スリーピーね・・・実は私も昔見たことあるんだけど)

マカの記憶にもあった”スリーピー”と、今目の前にあるそれはほぼ同一のものだった。

紅い肌、丸いがところどころ妙に尖った部分のある顔、長い首、ビールっぱらの胴体には羽根までついていた。両手足には鋭い爪が見えている。


我々人間が言うところのドラゴン、である。


それが寝ている。ユタがすさまじい足音を響かせてこれを持って来た時からずっと、このドラゴンは寝たままである。

呼吸に合わせてゆっくりと胴体を上下し、まるでただの置物であるかのようにそれ以外はまったく動きが無い。

寝ているということ以外この動物を特徴付けるものが何一つ無い。それがスリーピーの語源らしい。

獰猛にほかの動物を襲うこともせず、生殖活動も億劫なのか個体数も少ない。長い長い一生のほとんどを寝てすごす、非常に珍しい伝説化した生き物である。

これほど巨大な物を近いとはいえ山一つ越えなければならない人間の街から運ぶとは・・・

改めてマカはこの若いオウルベアの力と好奇心の強さに圧倒された。


オウルベアは知的生命体であるが、生産活動はあまり行わない。

農業を好んで行うが規模は家庭菜園程度で、食料はほとんど山の木の実や川の魚などであり、そのために一日何百キロという範囲を歩き回り気に入った食料を調達する。

最近では近くに出来た人間の街から、調理された食べ物を気軽に(勝手に)持ってきたりしている。

しかも細々とやっている家庭菜園というのも小麦やブドウ、各種果物。

そのほとんどが酒やお菓子の材料としてしか使われないというからすごい。

根っからの陽気な種族で悩むということが無い。




「 そうね、スリーピーね。それについては納得。ありがとうね。

 で・・・なんでそれをウチに持ってきたの?というか村に持ち込んだの?」

今現在悩みをかかえているマカは、オウルベアの中では変わり者に属する。非常に珍しい常識を持ったオウルベアなのだ。

ただしこの質問に関しては全く正しい答を期待してはいなかった。何せ相手は典型的なオウルベアだからだ。だが聞かずにはおれなかった。

問いかけられたユタは、嬉しさのあまり小さな(?)身体を小刻みに震わせ、丁寧に作り上げたテラスの床を破らんばかりに足を踏み鳴らしている。


「 だってスリーピーだよ!すごくない?僕もーびっくりしたよ!」

説明は以上。ユタはテラスを駆け下り、スリーピーをあらためて観察しだした。

これはもうダメだ。今度こそマカはぐったりとテーブルに突っ伏した。




これはオウルベア族の特徴である。

とにかく好奇心旺盛、どんなとんでもない代物でも珍しい、面白いの一言で持ってきてしまうのだ。

マカとユタ、彼女らが住んでいるこのオウルベアの集落にある物ほぼ全部が、そのようにしてどこかから拾ってきた物だ。

マカのように綺麗に整理された庭や家を持つものは珍しく、岩だらけの庭、拾ってきた犬や猫で埋め尽くされているペット屋敷、

不気味なトーテムポールや人面岩で出来た家など、たいていはろくでもない収集家ばかりなのがオウルベアという種族だ。

彼らに物を集める理由などない。何となく面白いからという理由だけですべてを持ち去ってしまうのだ。


しかも貰う、盗むなどという概念も彼らにはない。(実は常識があるというマカもこの点については普通のオウルベアと一緒だ)

同じ村の中に住む仲間の家からですら何の断りもなしに物を持ち出し、持ち主もなんらそれをとがめない。

なんとも能天気な、おおらかな種族ではあるのだが、そのせいで近くにある人間の街は酷い目にあっている。

これが何なのかも分からずに、家財道具やオブジェ、果ては電柱まで引っこ抜いて持ち去ったりしているのだ。

料理に毒を混ぜたり、落とし穴を掘ったりして人間側もなんとかものを盗まれないように工夫を凝らしている。

ユタなんかはこのために何度かひどい目に逢ってはいるのだが、

この生命力の異常に高い、そして妙に運の良い種族を止める有効な手立てにはなっていないようだ。






「 あのね・・・ユタちゃん」

最初にユタに声をかけたのと全く同じセリフである事を自覚しながら、マカは辛抱強くまた口を開いた。


「 スリーピーの話は私も知ってる。面白い話だと思うけれど・・・

 でもあれって、いくら面白そうでも持ってきていい物とそうでない物とがあるっていうお話じゃなかった?」

マカの言う事は事実だ。


オウルベアに伝わる伝説めいたおとぎ話。マカは思い出しながら、口ずさみはじめた。

「 珍しい大きな生き物、スリーピーを見つけて、あるオウルベアは喜び勇んで自分の家へ運びました。

 とっても美しいスリーピーの姿に、珍しい珍しいとスリーピーを囲んで村のオウルベア達は連日連夜の大騒ぎ。

 あまりの騒がしさに起きたスリーピーは怒って、村を焼き尽くしてしまいましたとさ」


これがスリーピーのおとぎ話。

マカの言うとおり、過ぎた好奇心を戒める、能天気なオウルベアにしては珍しく真面目な教訓ものの話である。

「 スリーピーはオウルベアの神様が使わしたもので、それを見つけた時は神様が怒っているからで、

 あんまり物を持ち運んではいけないっていうしるしなんじゃなかった?」

さらにユタに言い含めるように、マカ。

いくら村一番のわんぱくでも、この話は知っているらしい。それでも好奇心を抑えられずに持ってきてしまったようだが、

ようやくその点に気付き、ユタは居心地悪そうにもじもじして聞いていた。




「 でもォ・・・だって・・・こンなの見たこと無いし・・・」

それでもやはり好奇心の方が若干勝っているのはさすがユタというところか。


そんなユタに少し微笑みながらマカは考えた。

伝説が本当かどうかは分からないが事実ここにスリーピーがいて、どう見ても生きている。

いずれ他のオウルベアも聞きつけて騒ぎ出した時、スリーピーが怒らない理由はない。

火を吐くかどうかは分からないがこれほどの体躯と、両手両足の鋭い爪だけでも脅威だろう。


考えながらも恐ろしくなってマカはぶるっと一つ身を震わせた。

村にスリーピーを置いておくわけにはいかない。

ついでに中途半端な諭し方ではこの好奇心の強すぎる少年はけしておさまらないだろう。

(う~・・・叱るっていうのは性に合わないんだよね)


マカは意識して厳しい顔をつくり、ユタに嫌われてしまう事も含めて覚悟を決めた。










───1時間後には、マカの庭は平穏を取り戻し、淹れなおした紅茶でマカは一息ついていた。


(ま・・・うまくいったと言えるかな。

 やっぱりユタちゃん家のカボチャ畑が燃やされちゃうっていう脅しは効くわね。あれ美味しいもん)

実際、覚悟したほどに厳しい言葉を浴びせる事はなかった。ユタはしょんぼりしながらも殊勝にマカの話を呑み込んでくれたのだった。


問題のスリーピーは、人間の街に戻すのも危険なので別の山の奥地まで運んでもらい、ユタ自身もその場所へは二度と行かない事を誓わせた。

まるでリストラを宣告されて職場を去っていくサラリーマンのように肩を垂らしてスリーピーを引きずっていくユタを見た時には心が痛んだが

やらなければならない事は素直にやってくれる子だ。

マカは安心して紅茶を飲み干すと、庭の手入れにかかった。










翌日の事である。

まさか、まさかたった一日で自分の努力が泡となるとはマカは予想だにしていなかった。




(イヌか・・・ウサギがいたらいいな。庭に放し飼いに出来そうなのがいたら連れて帰ろう・・・♪)

南の野原へ出かけようとした矢先、呼び止められた。



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