俺、また馬に生まれました ―悲劇の伝説馬―
「俺、また馬に生まれました」の閑話にあたります。
本編はこちら↓
【俺、また馬に生まれました】
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――競馬雑誌『ホースマン』特別企画
悲劇の伝説名馬、ヤマトカイザーを追う
悲劇の伝説名馬ヤマトカイザーについて、当時担当していた厩務員の平田さんと調教師の河野先生に教えていただきました。
Q.カイザーの最初の印象はいかがでしたか?
河野:入厩した時にすでにG1馬の風格すらあるように感じました。2歳馬にはとても見えなかったです。
平田:超良血馬ということで緊張しましたね。
Q.カイザーはいつもはどんな風に過ごしていましたか?
平田:とにかく手がかからないって感じでしたね。手入れも嫌がるそぶりは一切ないし、いたずらもなかったですね。
他の馬がいやがって暴れていてもまったく動じなかったですし、いたずらしているところを見ても加担することなく、ただ見てるだけって感じで愛想もふりまくことはなかったですね。本当は甘えて欲しかったのですが。
Q.あまり感情を出すことがなかったってことですか?
平田:リンゴを出したとき、ちょっとだけ反応するんですよ。無表情に見えて実は目が追っていました。ちょっといたずら心でじらしてみたら、カイザーは一歩も動かないのですがね。なんかすごい目力で、こっちが負けちゃうんですよ。あわてて差し出しちゃいましたよ。それからはやってません。
Q.仲の良い馬とかはいましたか?
平田:他の馬はカイザーを避けてましたね。なんとなくだけど圧があるんですよ。古馬でさえカイザーが来たら道あけるんですよ。人も馬も。
カイザーは何もしないんですが、オーラというか近づきがたいというか、本当何もしないんですよ。普段は大人しいし、ただゆっくり歩いているだけで。
Q.カイザーの調教は何か特別なこととかされていましたか?
河野:いや…。(ここで河野先生は、ためてから答えられました)
何も教えられなかったのですよね。ゲートとか一通りは教えたのですが、一切躓くことなくどれもこれもカイザーは簡単にこなしちゃうんですよね。
きつめの調教もカイザーは軽々とこなして、日ごろの運動とばかりの態度でしたね。
本当に化け物じみていました。古馬相手でも軽く先着するんですよ。2歳馬がですよ。
あ、ただね。ムチだけはダメでしたね。特にカイザーが必要ないのに使ったと思われたら最後、もうね。乗り手を振り落としてにらみつけてましたよ。
だから、騎手はレースの時にムチは見せるだけで絶対に使わないようにしてましたね。
Q.カイザーは逃げ馬という印象が強いのですが、馬が嫌いだったとかですか?
河野:いや、あれ逃げていたんじゃないんですよ。カイザーの『馬なり』は他の馬の『追い込み』に近いんですよ。
レース中もカイザーはずっと『馬なり』なんです。ゴールまで。本当に化け物ですよね。
おそらくカイザーはレース中も本気じゃなかったんですよ。レースどころか調教も。我々はカイザーの本気を見たことがない。
平田:(はっとしたような感じで)そういえば、いつも調教後もカイザーだけは元気でしたね。思えば軽い運動程度だったのかも。
河野:カイザーに教えなければならなかったことは本気で走るってことだったと思っています。そのためにはカイザーには『敗北』が必要だったんです。
私はね、相手が強くなっていくうちにカイザーが壁にぶつかる。そしてそれがカイザーの調教の始まりだと思っていました。
結局、カイザーの調教は始まらなかったのですがね。(ここで先生はやるせない表情をされていました)
Q.凱旋門に挑戦していたら、カイザーは勝っていたと思われますか?
河野:競馬にたらればはないですが、今でも夢に見ます。世界の壁は厚い。でも我々はカイザーの底を知らないのですよ。案外あっさり勝ってたかもですね。
Q.最後にまさに皇帝ともいえるカイザーの意外な一面とか教えてください。
河野:…ないかも。
平田:うーん、本当に甘えてもくれなかったんですよね。さみしいですが…あっ!!そういえば厩舎に入ってきた猫をずっと見てました。一度鼻を近づけて威嚇されてましたね。
伝説の無敗馬ヤマトカイザーのご逝去を悼み、謹んでお悔やみ申し上げますとともに、心からご冥福をお祈りいたします。




