第二十一話:何かが起こるはずもなく……
萌実とのカラオケデートから一日が経過した。
カラオケデート終盤、僕達は僕の不手際により変な雰囲気になった。延長するかどうかを彼女に尋ねられ、僕の心は延長に偏り始めて……その意思を店員に伝えることにした。
『すみません。本日の店内は大変混雑していまして……』
しかし、延長は出来なかった。
そう言えば入店の際、二時間制限をつけられていたことを僕はそこでようやく思い出した。
帰り、受付で清算をしている時、受付前では五組くらいの客が自分の番を待っていた。
……ああ、僕は昨日、どうしてあんな恥ずかしいことを。
一夜明けても、僕は恥ずかしさのあまり、昨日の出来事を思い出す度に頭を抱えていた。
折角、萌実とカラオケに行ったにも関わらず、一人で二時間熱唱したこと。
終わり間際のやらかし。
……本当、何度思い出しても、昨日の僕はやらかしすぎた。
穴があったら入りたい気分だった。
そんなこんなで、集中出来ない状態で授業は進み、今は六限目。この時間はクラス活動の時間にあてられていた。
「皆さん、こちらに注目してください」
そんなクラス活動の時間に教壇に立つ人は、萌実。
彼女はこのクラスの学級委員長だった。
「今日は、来月に行われる予定の文化祭に向けたクラスの出し物決めをします」
体調も快復し、マスクを外した萌実が言った。
途端、クラスメイト達がざわつき始めた。
「文化祭楽しみだねー」
「ね。ウチの文化祭、結構すごいらしいよ」
「えー、そうなんだー」
ざわつき出した理由はどうやら、文化祭への高いモチベーション。
……まあ、かくいう僕も、文化祭は結構楽しみにしている口だった。
「静かに」
ざわつき出したクラスメイトに、萌実は少し怒ったように言った。
「とにかくクラスの出し物を決めます」
「……ねえ、萌実?」
「何、真紀」
「クラスの出し物ってどんなことを決めるの? 発表会の出し物? それとも、屋台とかそっちの類?」
「屋台とかそっちの類。ウチの文化祭は、原則体育館を使っての出し物は有志のみって決まってる」
「へー。ちなみに、売り上げ金とかでの順位付けとかあるの?」
「ある」
クラス内が沸き立った。
どうやらウチのクラスは、好戦的な人間が多いようだ。
「とにかく、そんな感じ。じゃあ、出し物決めをします。……とりあえず、いくつか出し物の案を出して、その中から多数決で決めようと思うけど、やりたいことある人いる?」
「はあい!」
木下さんが元気よく手を挙げた。
「カラオケ!」
「却下」
「判断が早い! せめて多数決の場には生き残らせて……!」
「駄目。カラオケなんて機材準備だけでいくらかかるのよ」
木下さんはぐうの音も出ないのか、静かに着席した。
「喫茶店」
「焼きそば」
「軽食屋」
カラオケは却下されたが、クラスメイト達は思いつく限りの出し物の案を出し合った。
そうして、いくつかの案を募った後、多数決で最終決議が下された。
「じゃあ、ウチのクラスの出し物は喫茶店ってことで」
萌実の発表の後、クラス内で拍手が起きた。しかし、その拍手はまばらだった。
「ねえ、大崎さん?」
「何?」
「喫茶店ってだけだと……なんだかパンチが弱くない?」
やはりウチのクラスメイトは、好戦的な人間が多いらしい。
喫茶店という出し物自体は決まったが、それだけだと他クラスと比較し、優位性を見出せないと思ったのだろう。
「というか多分、喫茶店なんていくつかのクラスと被るよな」
「絶対ね」
「……じゃあ、付加価値を付けましょ」
不満げなクラスメイトに、萌実は提案した。
「付加価値?」
「そ。喫茶店じゃなくて、例えば……コンセプトカフェにするとか」
「コンセプトカフェ」
「閃いた!」
手を挙げたのはクラスでもお調子者に分類される島村君。
「メイド喫茶にしよう」
「却下」
「判断が早い!」
項垂れる島村君。
「……いやまあ、あたしもやりたくないかも」
「メイドの恰好なんてねー」
「キモ……」
そんな島村君は、女子からの非難の的となった。
「おいおい、なんだよお前等。お前等なんだよ! このクラスの勝利のため、ひと肌脱ごうって考えはないのかよ!」
しかし、島村君は食い下がった。
「じゃあ島村、女子全員分のメイド服、あんたがカンパしてくれる?」
萌実の正論に、島村君はシュンとして着席した。
島村君のメイド喫茶という案に対して、女子陣の反応は冷ややかだった。
しかし、萌実と他女子の非難理由は少し毛色が異なることに気が付いた。
他の女子は、そもそもメイド服自体に嫌悪がある様子だったが……萌実はどちらかというと、資金面で難色を示した格好だった。
思えば、木下さんがカラオケを提案した際も、同様の理由で萌実は難色を示していた。
……クラスの出し物に使用される資金は、恐らく文化祭実行委員から多少は工面されるが、大多数は自腹……協力的なら担任の先生も少しはカンパしてくれるか。
そう考えると……なるほど。確かに、予算はカツカツで、萌実の主張にも頷けた。
しかし、そうなると……コンセプトカフェで必要な条件は低予算なことと、目新しさ。
そんな素晴らしい斬新なアイディア、僕達で思いつくことが出来るのだろうか?
「はい」
そんな中、森さんが挙手をした。
「皆、ダイエットをコンセプトにしたカフェとかどうかな?」
森さんが提案したコンセプトカフェの設定は……。
「ダイエット?」
「そ。扱う商品は全て低カロリー。ウェイトレスの恰好はスポーツウェア」
確かに、スポーツウェアの一着くらい、クラスメイトの誰しもが持っているはずだし、余計な費用はかからない。
そして、ダイエットカフェなんて世にも奇妙な喫茶店、注目を集めないはずがない。
「あー、それいいかもー」
「ね。お祭りの雰囲気に浮かれる中、そういうコンセプトのお店があったら興味そそられるね」
同調する女子。
「……なるほど。確かにスポーツウェアも肌色が多いな」
「ああ、つうかエロいよな」
……同調する男子。
「あ、勿論。抵抗がある子は、長袖とレギンス着用オッケーね」
「何っ!?」
「何?」
肌面積が減ることに立ち上がった一人の男子は、森さんの一睨みで着席した。
「……森さん、それ面白そう!」
「ね。ダイエットの良い勉強にもなるかも!」
「……まあ、全員とは言わずとも、肌面積の多い人がいれば」
「悪くない……間違いなく」
クラスの方向性は、どうやら固まったらしい。
「じゃあ、カフェのコンセプトはダイエットでいい?」
「いいでーす!」
「さんせーい!」
無事、僕達のクラスの出し物は、ダイエットカフェ、ということで決定した。
「それじゃあ、カフェの準備は誰主導で進める?」
……そして。
「そりゃあもう、適任がいるでしょ」
皆の視線が、一斉に僕に集まった。
「……え」
「田所君! お願い!」
僕に向けて懇願するように手を合わせたのは、立ち上がっていた森さんだった。
「ダイエットカフェの統括リーダー、お願い出来ない?」
……。
「えぇっ!? 僕っ!???」
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