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エピローグ

 一連の騒動の主犯、勝田宗生は契助の『血気循環』により蘇生され、駆け付けてきた‶騎士団長‶の部隊に拘束された。現場に残された『ASNA』も同様に回収され、新素材『グレイプニール』の解析などが《月下猟犬》で行われている。

 テレビのニュースでは移送車襲撃と工場での戦闘を‶老朽化した工場の崩壊‶として取り上げており、現場にいた契助達のことは一切報じられることなく終わる。

 テロ爆発に立て続けて起こった出来事に一部の学都民が何か関係あると訴えたが、世間はそれを取り合おうとせず、やがて沈静化した。

 爆破テロを引き起こした勝田は警察に引き渡され、爆発テロ事件は勝田の逮捕という報道で完全に幕を下ろした。

 だが、拘束された勝田は自身の体内で生み出した毒薬により、自殺。《アダム》の情報を一切聞き取ることができずに捜査は打ち切られることとなる。


『おそらく勝田は、《アダム》に利用されたんだろうね』


 勝田の自死による報告と共に呟かれた、そんなネコの言葉が、ふいに脳裏によぎる。

 勝田自身は《アダム》を己の欲望を満たし、計画を実行するために利用したと言っていた。だが、真相はどうだろうか。

 勝田は《アダム》を出し抜いていたのか、はたまた掌の上で踊らされていたのか……それはもう、誰にも分からないことだ。


「ようやく、全部……終わったんですね」


「そうだな。研究所に誘拐された人達は元の生活に戻っている。ショッピングモールの爆破テロの被害も、少しずつ回復している。これ以上、勝田によって苦しめられる人はいない」


「……傷跡は、しばらく残るかもしれません」


「……ああ、そうかもな。だが、いつか前を向ける日が来るはずだ」


 事件の翌日、事件の後処理をネコと‶騎士団長‶に任せて契助と七海は浮島学都の外へ出ていた。

 海の見える丘の上、そこにある墓地の墓の一つ。

『八重波家』と彫られた墓の前に花と線香を添えて、手を合わせる七海を契助は見守る。二年前のテロ事件、そして今回の事件。終わったよ、と七海は両親に心の中で安眠を祈る。


「ありがとうございます。わざわざ、学都の外にまで着いてきてくれて」


「気にしなくていい。《猟犬》本部の呼び出しを断るいい理由になったからな」


「行かなくて大丈夫だったんですか?」


「事情聴取はすぐ終わる。だけど技術課の奴らの説教は永遠だ。七海も一度されてみるといい。本部に足を運ぶのが億劫になるぜ」


「ふふっ、そうだったんですね」


 海風になびく髪を耳に掛けながら、七海は立ち上がる。また会いに来るね、と言い残して踵を返した。その時に、頭の後ろで手を組む契助と目が合う。


「これから、どうするんだ? 学校に復学するなら《猟犬》本部が対応してくれると思うぞ。


「いえ、学校には戻りません。私は……契助さんの隣に居たいから」


「そうか。それなら、ネコに言わないとな。志願兵の新人を鍛えてくれ、ってな」


「気合いは充分です! むふー!」


 ふんす、と鼻を鳴らしながら七海が腕を振る。契助はその様子を見て笑い声を上げながら歩き始める。七海が契助の後を追い掛けようとした時、ふと、両親の声が聞こえたような気がして振り返る。


「……七海?」


「――いえ、なんでもありません」


 七海は背を向けると、小さな声で「行ってきます」と呟いた。

 柔らかな風が七海の頬を撫でる。

 もう何も心配はいらない、そんな予感を胸に抱えながら先に行く契助に追いついて、その腕に抱き付いた。


「助けてくれて、ありがとうございます」


「それが俺の使命だからな」


「最後まで見届けさせてくれて、ありがとうございます」


「お前の願いを叶えられてよかった」


「これからずっと、契助さんの隣に居てもいいですか?」


「ああ。もちろんだ」


 そうして契助と七海は、手を繋いで歩き出す。

 七海は、もう『死にたい』とは思わない。

 その隣には、『生きてくれ』と願う人がいるから。

 お節介でお人好しで、‶救いたがりの殺人鬼‶を支えることが、きっと七海の生きる道だ。


「契助さん」


「ん? どうした?」


 七海に呼ばれて顔を向ける契助。

 その瞬間、唇に柔らかい感触が触れる。


「えへへ、大好きです」


 満面の笑みを咲かせる七海に、契助は目を逸らしながら頭を掻く。だが、その耳が赤く染まっているのを七海は見逃さなかった。七海はからかうような笑みを浮かべ、契助は逃げるように顔を背ける。

 そんな二人の背中を押すように潮風が吹く。遠くでは港からの出航を知らせる汽笛が鳴っていた。


「……帰るか、俺達の街に」


「はいっ、帰りましょう! 第三学区へ!」


 この先、どうなるかは分からない。

 だが、きっと――二人なら、大丈夫だ。

 契助と七海は同じことを考えながら、帰路に就いた。

 帰るべき場所、『浮島学都第三学区』へと。


 ――誰かを救いたいと願う殺人鬼。


 ――死に絶えることを夢見た人魚姫。


 これは、そんな二人の出逢いを描く物語。

 救いたがりの殺人鬼と、死にたがりの人魚姫が結ばれるまでの、物語。



『救いたがりの殺人鬼 死にたがりの人魚姫』 完

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― 新着の感想 ―
面白かったです。第五章からのクライマックスは一気に読んでしまいました。七海の活躍するエピソード2なんかも考えてたりしますか?楽しみにしてます。
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