プロローグ
――シンデレラ・コンプレックス、という言葉を聞いたことはあるだろうか?
グリム童話として有名な、あのシンデレラから由来しているこの言葉、それは『いつか自分のところにも王子様がやってくるっ!』とか『きっと魔女のように誰かが私を助けてくれるはず!』という希望を持った女性の持つ、ある種の依存症のようなものである。
シンデレラ。
灰かぶり姫。
ハッピーエンドの代名詞。
だが、この物語の主人公達はシンデレラではない。
登場するのは、殺人鬼と人魚姫だ。
殺人鬼。
殺人という大罪を犯した者。人でありながら化け物の名を与えられた者。
果たしてそれは殺人を犯したから鬼と化したのか、はたまた鬼であったからこそ殺人を為したのか。
それは殺人鬼にも分からない。
誰かを救いたいと願う殺人鬼には分からない。
人魚姫。
悲哀にして悲恋の王女。
愛するが故に人となり、愛するが故に死を選んだ。
人魚姫は死んだ。悲しみの果てに死を選んだ。
だが、もしその身が不死であったら?
不老不死の人魚姫。
死ぬことも許されず、愛されることも叶わない。
ただ死に絶えることだけを夢に見る。
救いたがりの殺人鬼と、死にたがりの人魚姫。
これは、そんな二人の物語。