表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/9

8.この身を捧げる

興味を持っていただきありがとうございます。


今回の投稿文字数は約6000文字です。

投稿者の読み終わり時間は約25分です。

長くなりごめんなさい。


次回の投稿時間の日にちは未定ですが、時間帯は19時15分から19時半までの時間で行おうと思います。

その時間帯以外に投稿はしません。


誤字脱字、説明不足などがありましたら教えていただけると助かります。

 魔法陣の展開から放たれるまでを1秒という極短時間で行う事ができるフィルフィの高い魔法技術に、距離を縮めて棒で殴るという計画が早くも崩れ去った。


 鼻に皺を寄せて半眼で睨むゼノの姿をフィルフィは破顔して満足気に笑う。


 この瞬間に主導権はフィルフィに大きく傾いている。


 余裕の現れは長年で培われた魔法に対する絶対の自身と練りに練った数多くの手札を残しているから。


 生まれて1000年以上のハイ・エルフとまだ生まれて15年の人間とでは経験が違いすぎて到底かなうわけがない。


 ゼノは戦況をどうにかしようとフィルフィの情報を集める事を最優先として行動を開始した。


「まずは、落としてみるか」


 ボコォッ。

 ゼノは錬成を行使して一瞬の間にフィルフィの真下に大穴を開けて体勢を崩しにかかる。


 狙いは成功し、フィルフィは空いた大穴に落下していくと目は幾分か見開かれて、手は何か掴むものを探ながら体勢を崩した。


「よしっ!」


 ゼノは拳を握り、歯を見せて喜ぶ。

 フィルフィは落下しながら目の前で喜ぶゼノを見つつ、薄ら笑いを浮かべる。


「【月散歩(ムーンストロール)】」

「う、浮くのかよっ!?」


 魔法を行使した事により崩された態勢のままフィルフィの体が浮き上がり宙を漂う。


 魔法は攻撃をするものとして認識していたゼノは、目の前で浮かぶフィルフィを口を半開きにして目で追った。


 あまりにも可笑しく映るゼノの姿にフィルフィは笑いを堪える事ができずに吹き出すと身を悶えさせて喜びに浸る。


「あっはっは。そうだよね、浮くなんて思ってもいなかったよね。でもね、こんな事は当たり前。僕はね、何でも出来てしまうんだよ。次はこっちの番だね、ゼノ。君、走るのは得意かい?」


 フィルフィは宙でくつろいだまま掌で円を描く。

 描いた円に合わせて各系統の魔法陣が10個展開されると単発ずつ射出される。


 射出後には新たな魔法陣がすぐに展開されていく。


 それは速射と言えるほどに連続性を持ち、ゼノが逃げ惑う後ろを狙って撃ち続ける。直線で逃げる事はせずにジグザグに動いて魔法を回避していたゼノは、息継ぎを忘れたまま急いで大穴を錬成して飛び込む。

 大穴の中でとりあえずの危険が去っていくと深呼吸して体に大量の空気を取り込んだ。


「おいっ、フィルフィ、それは卑怯じゃないのかっ!!」


 大穴に逃げ込んだゼノは吸い込んだ空気を悪態に変えると吐き出して声を張り上げる。

 逃げ惑う姿がツボにハマったフィルフィは目尻から涙を流して笑い転げた。


「いや、ごめんねっ、ちょっと面白かったから。あ〜、君は僕を笑い死にさせて勝とうとしているのかい?」

「するかっ! そんな事! 魔法陣ごとぶっ壊……す、ぞ?」


 ――脳裏に急上昇してきた書庫で見かけた一枚紙。

 ゼノの『壊す』という言葉で思考の奥底から浮き上がってきたようだ。

 紙の内容はどれも信じ難く、確認しようにも一人ではとてもではないが検証しようがない物だった為に思考の底辺に埋もれていたのだ。


「どうするかなぁ〜」


 頭をガシガシ掻き回して纏まらない決断に髪の毛を暴れ回らせる。

 これしかない、と頬を叩いて目をギラつかせるとゼノは大穴から玉砕覚悟で飛び出してフィルフィの元へ突撃していった。


「なんだい、ゼノ? 策が尽きたのかい? ……残念だよ」


 終わりの挨拶に聞こえる言葉と共に手を横へ滑らせて4つ魔法陣を展開すると狙いを定めて射出する。

 射出された魔法はゼノとの距離を縮めていく。


 ゼノも錬成を行使する。が、地面からは土の盾が現れる様子はない。ゼノは気にする素振りすらなくそのまま放たれた魔法に直進していく。


 魔法が到達する直前、地面に脚から滑り込むと眼前を荒々しく燃える火球が通り過ぎる。通過後、右眉の上の前髪はチリチリと焼けて丸くなり焦げ臭い匂いが鼻に届く。


 直後、壁に魔法が直撃して炸裂すると、地響きと衝撃音が肌を震わせる。

 直撃していれば即医療室行きになっていただろう。


 ゼノは危険を冒してまで魔法を誘発させた理由を確認しようと振り向き爆発した壁を見つめる。


「1、2……3!! よしっ!」


 壁に残る魔法を受けた跡が3発だと確認すると勝利への道筋とフィルフィの悔しい顔が思い浮かび口の端から笑いが漏れる。


 そして、フィルフィの手元に残った1つの魔法陣は行使される事なく亀裂が入ると無惨にも割れて消えていった。


「?? 何が起きた?」


 フィルフィには魔法陣が発動せずに粉々になって消えていった理由が分からずに疑問符が浮かぶ。

 魔法陣が壊れる事は新米詠唱者ではもちろんあり得る。


 展開に使う魔法陣が上手く構成されていなかったり、構成しなければいけない条件を満たしていなかったり。あるいは、魔力を流し過ぎた事による魔力過剰(オーバーフロー)が考えられる。


 しかし、熟練者、それも魔法については誰よりも詳しい人と自負するフィルフィが新米のようなミスをするとは到底思えない。


「どうしたのかな、フィルフィ? 1つだけ魔法、飛んでこなかったけど?」


 ゼノは土で汚れた膝を払いながら理由を知っているかのような含み笑いをフィルフィへ向ける。その顔には、追い詰められた焦りではなく全ての条件が揃い、勝利の勝ち筋と強者への反逆が叶ったご機嫌な顔つき。


「ゼノォ、僕の魔法に何をしたのかなぁ」


 原因にゼノが関わっている事は間違いない。


「何が起きたのか説明してくれるのかな?」

「……秘密っ」


 茶目っ気のある口元と片目を瞑ってフィルフィを茶化す。怒りが頂点に達したフィルフィは両手を掲げて魔法を行使し始める。


 魔法陣という花が訓練場の壁や天井を埋めていく。

 色とりどりの魔法は咲き乱れる花と見間違える程に煌びやかに一面を埋め尽くした。


「魔法は抑えているから死んだりはしないよ。でも、かなり痛いから終わったらすぐに医療室に連れて行くからね。だから、僕の怒りの吐け口になっておくれよ」

「それは大変だな。痛くならないうちに……消してしまおうか」


 パキィィィィンッ!!


 ゼノが手を挙げて振り下ろす動作と同時にして訓練場に広がった色とりどりの魔法陣は全てが跡形もなく粉々となり、残滓が照明に照らされると煌めいて消えていく。


 隙間なく組み上げた魔法陣が一瞬にして全て破壊された事に呆然としながらも頭の片隅では『何故?』と小さく呟いて疑問を探求しようとするフィルフィ。


 隙を見せたフィルフィへ疾走して一気に攻勢をかける。


「くっ」


 ゼノの接近に気づいて魔法陣を展開するもすぐに破壊されてしまう。魔法陣が破壊される瞬間にフィルフィは展開された魔法陣に取り付いた物を見つけた。


「あれは……極小の魔法陣、なのか?」


 錬成した土の棒を持ったゼノが首筋を狙い上段から振り下ろす。


 1秒に満たない時間に棒が首を強打する未来が理解できているからなのだろうか。フィルフィに回避行動や魔法を行使する素振りはない。


 むしろ、目の前で起きた現象を頭の中で検証でもしているのか顔つきからは怒りが消え去り、魔法の探求者としてのおおらかな顔をして訓練場にいる事を忘れているように映る。


「それまでっ!!」


 ゼノは荒い息遣いのままフィルフィの首元へ叩きつけるはずの棒を寸止めして声の主・マリベルに頭を向ける。依然としてフィルフィは変わらず、ゼノとの戦いそっちのけで腕を組み頭を悩ませている。


「もう、いいんだな?」

「はい、結構です。ありがとうございました」


 ゼノは勝負が決した事で張り詰めていた緊張を息を吐き出して解いた。


「勝負は決しました。ゼノの勝利です」


 ◇◆◇


 立ち見という離れた場所から結審を告げたマリベルは颯爽とフィルフィの元へ駆けつけると、フィルフィに滲んだ汗をやわらかさしかないタオルで優しくポンポンと拭き取っていく。


 目を瞑りマリベルに身を任せるフィルフィと微笑む顔つきのマリベルはどうみても親子に見える。


「マリベル、おれのタオルもあったりする?」

「はい、これ」


 片手でタオルを投げつける。

 使い込まれたタオルは汗を吸い込みそうな程に乾いてどちらかといえばゴシゴシ洗う方のタオルだ。


 (なんかちょっとずつマリベルの対応が悪くなっているような……)


 特にフィルフィとの戦い後。今が一番マリベルのあたりの強さを感じている。勝ってはまずかったのか、競り合いを演じて最後は負けるべきだったのか悩みを見せる。


「君が負けを演じるようなら僕は君を丸焦げにしていただろうね」


 心を読まれ、脈が急激に上がり鼓動も跳ね上がる。

 顔の汗を拭い取りながら乱れた鼓動を落ち着かせて、ゼノを君呼びする声を探す。

 汗を拭われ終わったフィルフィはマリベルを連れてゼノまで寄ってきていた。


「さっきのは魔法なのかい? 僕は初めて見る魔法? だったよ」


 戦闘中の怒りに満ちた様子はなく、部屋で初めて見た時の落ち着いた様子にピリつかせた体を緩ませて話しに応じる。


「さっきのは錬成の中でも形を壊す時につかう【分解】をそのまま使っただけだな。何でも魔法陣の一部を破壊すれば行使出来なくなるって書いた紙があったのを思い出したんだ」

「へぇ、それは初めて聞いたよ。それは誰が書いた物なのかな?」

「オレの親父だけど。今はどこにいったか知らないんだ。5年前に出て行ったっきり行方知らずだ」


 行方を気にする事はある。

 それでも忽然と行方不明になった親父にはどちらかといえば置いて行かれてしまったという怒りが強く、肩を落として悲しむ様子は微塵も感じられない。


「そっか。それは残念だね。そんな知識を持っているのなら是非とも僕は魔法について語り合ってみたかったよ」


 自分が知らない知識を求める事に関して貪欲なフィルフィはシュンとして肩をすくめた。その態度も少しの間だけでマリベルに手を差し伸べると大小二つの袋をゼノへ差し出す。


「これは?」

「これは、マリちゃんの救援に対する謝礼だよ。さっき渡し忘れていたからね。こっちのちっぽけなのはギルドから。金貨100枚あるよ。で、こっちの溢れそうなくらい金貨が詰まっているのは僕個人のお礼で金貨500枚あるよ。もちろん断るなんて事しないよね? これはマリちゃんの命の価値だよ」


 小さな袋はゼノの片手に収まって多少の重さを感じる。

 大きな袋は、片手には収まらずに両手で抱き抱えるようにして持つしかなかった。


 断るつもりでいたゼノも謝礼は命の価値と言われてしまうと弱く、断る事ができずに了承して隅に置いていた肩掛け鞄の中に収納した。


 ヒュンッ。


 収納の際に、目を丸くして肩掛け鞄を見つめるフィルフィにマリベルが頭を振って『あぁいう人なのです』と静かにたしなめていた。 


 長くなった休憩と謝礼を受け取るとゼノは他に用件があるか尋ねる。マリベルは無いとして頭を横へ振ったが、フィルフィは口を開いた。


「聞いてもいいかい? 君は何のために守護者になるのかい? 何か目的はあるのかい?」


 フィルフィは守護者となるゼノにどんな覚悟を持っているのか確認したいように感じる。


 翡翠色の瞳はゼノの気構えを見極めようとしてくる。見つめられた瞳を前にして嘘や生半可な答えは許されないだろう。


 ゼノはフィルフィの質問に無言を貫いて答えを出す事ができなかった。


「……じゃあ、聞き方を変えるよ。僕やマリちゃんが重症を負った場合助けてくれるかな?」

「当たり前だ」


 間髪いれずに即答する。


「ありがとう。じゃあ……ギルドにいた長耳足(エルフ)熊耳属(ベアグリフ)はどうかな?」

「もちろん助ける」

「じゃあ、街中の獣人族(ワーウルフ)はどうかな?」

「助けるだろうな」

「そっか、じゃあ……」


 フィルフィは真意を図る力強い瞳をゼノの瞳に向けた。


「魔狼なら助けるかい?」

「魔狼は……助けないだろうな」

「じゃあ、魔狼と獣人族(ワーウルフ)の違いは何だい? 二足歩行だから? 喋れるから? 何となくかな?」

「それは……」

「他もそうだよ。大魔熊だったら? 妖精族(フェアリー)だったら? 君は魔物だからといって切り捨てるのかい?」

「……」


 返事はない。

 答えられる答えも持ち合わせていない。

 ゼノにとって今まで考えた事のない考えだ。

 一人で生きていくのであれば不要な考え方も守護者として活動するのであれば自分の根底となる礎は必ず必要になるだろう。


「まぁ、今すぐではないけど決めておく事は必要だからね。それじゃこれで終わりとしようか。色々付き合わせて悪かったね」


 表情には出さずにただ目と口の筋肉で笑っている顔を作り、マリベルもフィルフィの隣に立つと頭を下げてゼノを見送った。


 ◇◆◇


 ゼノが訓練場をから引き上げていく姿が見えなくなるとフィルフィが口を開いた。


「マリちゃん。ゼノをよく見ておいてね」

「わかりました。フィルフィ様」

「もしよければだけどマリちゃんが番になってもくれてもいいからね」

「はい。……は、はい!? つ、つがい!? 結婚の事ですか!? い、今の所、特定の男性に好意を寄せる事は考えていません」


 ピンクに染めった顔を手で隠して勘違いにも高鳴った心臓がゼノとの仲を後押ししてくる。

 静かにして。マリベルは呟く。

 深呼吸を何回かすると高鳴りも落ち着きを取り戻すと、フィルフィへ真意を聞けるほどに冷静を取り戻した。


「なぜ、ゼノなのでしょうか?」

「なぜ? マリちゃんは戦いを見ていたかい? まさか僕をずっと見ていたわけじゃないだろ?」

「……」


 見ていました。

 そんな言葉を言える程マリベルは心を強く保てない。

 あえてここは無言で過ごすと決め込んだ。


「まぁ、いいや。ゼノは僕の魔法を相殺ではなく破壊又は破棄させたんだよ。魔法を使う前にね。

 それってつまり、ゼノの前では魔法陣を展開する魔法士はただの人に成り下がるって事だよ。もちろんそれは僕にも当てはまるわけだよ」


 フィルフィは戦いの中で感じ取った結果をまとめるとマリベルへ伝えた。マリベルも自分に当てはめて考えるとその意味合いを理解したのかゼノの異常さに青ざめた。


「ねっ。全ての魔法士はゼノに屈する。個は量に勝てないかも知れないけどゼノがいれば戦況は大きく変わるだろう。だから……」

「間違った道へ進まないように道標になる人が必要でそれが私であるなら安心、だと」

「そうだね、その通りだよっ」


 マリベルを指差して楽しそうに語るフィルフィは他人事でしかない。指名を受けたマリベルもその重要性は理解してできているがその為に自分の身体や人生を捧げる事に難色を示している。


「私は……私は、まだフィーちゃんのそばで仕事をしたいっ!!」


 感情が昂り、内に抱いたものが声となってフィルフィへ伝わる。フィルフィは驚きもせずにマリベルの言葉を受け入れると淡々と話す。


「仕事中は、その呼び方はダメっていったでしょ、マリちゃん」

「それなら、フィーちゃんも私をちゃん付けで呼ぶ事をやめて下さい」

「僕は、ギルドマスターだからいいんだよっ」

「それなら私も変えませんっ」


 頬を膨らませてそっぽをむくマリベルのギルドマスターへ対する対応はギルド統括として、という以上にマリベルという女性がフィルフィに好意を寄せている印象が強い。


 フィルフィもそれを感じているからこそゼノとの関係を提案したのだが見事に玉砕に終わった。


「ゼノ、守護者として頑張る事もいいけどマリベルをもらってくれると嬉しいんだけどね」


 小言でゼノへ懇願すると、これから通常のギルド統括へ戻す為にこの身を差し出す事になるフィルフィは手足や心に枷が嵌められて身体が重くなる感触を感じながら自室に戻って行った。

最後まで読んで頂きありがとうございます。

いかがだったでしょうか?


次回の予定は、メインヒロインが出てくる予定です。あくまで予定何ですが。


この小説を読んで、


「読む事が楽しかった」

「次回も読みたいかな」


と少しでも思われたら、↓の☆☆☆☆☆を押して、

星1〜星5で評価してくれると嬉しいです。


また、↓の『ブックマークへ追加』も押して次回を楽しみにしてもらえると涙目で嬉しいです。



読み終えたあなたの評価やブックマークのひと押しが作者の原動力に変わります。


よろしくお願いしまふ!!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ