俺って当事者だよな? 知らぬ間に全てを失いました
俺はナッツル・キリグランド、伯爵の息子だ。言っちゃ悪いが、顔がいい。そして、実家は太く、金もある。女が寄ってこないわけがない。
そんな俺には親父が決めた婚約者がいる。
ファメリア・サーベンディリアンヌ公爵令嬢だ。
「ナッツルの婚約者、かわいいーって感じだよな」
確かに可愛らしい顔立ちをしていると思う。でも、俺がいつも遊んでやっているような平民の女たちのような派手さがない。公爵令嬢なのに。
「あんな地味な女、興味ないよ。あーあ。俺の婚約者もトゥメル公爵令嬢みたいなスタイル抜群の美人だったらなぁ」
それに、ドレスの上からでもわかるくらい貧乳だ。あんなのに反応するの、ロリコンくらいだろ。俺はド派手な美人の巨乳が好きなんだよ。あーあ、なんであんな幼児体型が婚約者なんだ。
「お前、ナッツルの婚約者も公爵令嬢だろ? ナッツルは伯爵令息なんだから、今の発言はまずいぞ」
「いいっていいって。あいつもあいつの両親も内気で勇気なんてないから」
どうせ何も言ってこないし、俺の婚約者は決められていて代えられないんだし、今のうちくらいパーッと遊ばないと、男が廃るってものよ。
「……僕は君の婚約者のこと可愛いと思うけどね?」
「だ、第二王子殿下!?」
貴族子女の憧れ、メルフラッツォ第二王子殿下。
ロリコンだったのか!? 眉目秀麗で文武両道、完璧無欠の王子様。俺もイケメンだが、質が違う高貴さが漂っている。近寄りがたいというか。
「君がそんなふうに婚約者を蔑ろにするのなら、僕が攫っちゃうかもしれないよ?」
ウインクを飛ばしてそういうメルブラッツォ第二王子殿下の目は、本気だった。まさか、殿下、あの地味女に興味あるのか? さすがに第二王子殿下に婚約者を横取りされたら、親父にブチギレられかねないな。気をつけよう。
「だ、だだ第二王子殿下には不釣り合いな女ですよ!」
「そうかな? ファメリア嬢のご実家サーベンディリアンヌ公爵家は歴史ある公爵家だけどね? 君がエスコートを放棄しているんだ。僕がダンスに誘っても許してくれるよね?」
「も、もちろんです。その、すみません」
「それを言う相手は僕じゃないよね?」
せっかく俺が謝ってやったというのに、第二王子殿下は、ファメリアに謝らせようとする。くそっやってられるかよ。立ち去る第二王子殿下を見送った俺に、友人たちが声をかけてきた。
「大丈夫か?」
「あぁ。なんとかな。興が削がれたけどよ」
「確かに、サーベンディリアンヌ公爵令嬢は、図書館の妖精と言われているし、第二王子殿下は図書館に通い詰めてる目的は妖精に会いにいくためじゃないかって噂されているけど……」
「あ? ってことは、ファメリアが俺に第二王子殿下をけしかけて、恥をかかせようとしたってことか? やってらんねー!」
「おい、どこにいくんだよ?」
「女に声をかけて、出ていってやるよ。ファメリアにも恥をかかせてやるんだ」
そう言って、離れたところにいた貴族令嬢たちに声をかけた。会話を聞いていた者が多く、誰にも相手にされなかったから、メイドに声をかけて一緒に抜け出すこととした。
「ナッツルさまぁ。愛妾にしていただけるってぇ、本当ですかぁ?」
「あぁ、俺好みの女だからかわいがってやるよ!」
「やぁん。ナッツルさまったら、どこ見てるんですかぁ?」
いい女くらい簡単に釣れる。そんな自分の容姿に満足しながら、翌朝帰宅した。
「おい! ナッツル、お前今までどこをほっつき歩いてたんだ!?」
「どこでもいいだろ、親父。あの地味女と婚約してやってるんだから」
「その公爵令嬢との婚約を整えてやったのは誰だと思っている!? しかも、その公爵令嬢は第二王子の婚約者に代わったんだぞ!? せっかく苦労して公爵家との繋がりを作ったのに……」
「え、親父。それなら、王家に賠償を請求しようぜ! 第二王子が図書館の妖精を狙ってたって有名らしいぞ! 次の婚約者は、巨乳の美人でよろしく! トゥメル公爵令嬢とかがいいな」
「馬鹿者! むしろ、今まで婚約者を不当に扱っていた賠償を請求され、公爵家の乗っ取りを図ろうとした罪を問われることとなったぞ!」
「え、それ、俺、関係なくない? 別に俺は公爵家の乗っ取りなんて考えてなかったし」
ファメリア、俺が相手はしなくて寂しかったんだな。次から優しくしてやれば、ころっと戻ってくるだろう。
「お前はどうしてこんなに愚かなのだ! 我が家はよくて取り潰しだろう! お前も牢獄行きに決まっておるだろう! それが貴族社会というものだ!」
「じゃあ、俺。逃げて平民の女に匿ってもらおうかな?」
「……お前が今日我が家に帰ってこなかったことにはできぬ。王家の犬に見張られておるからな! ……こいつを捕らえておけ!」
「え、おい、親父、ちょっと待てよ!」
俺が何を言おうと無視され、屈強な従者に連れて行かれそうになった。思わず暴れると、殴り飛ばされ、俺の自慢の顔は腫れ上がった。そして、親父がたまに売買していた奴隷を閉じ込める牢獄に放り込まれ、鍵がかけられた。
「俺……いつのまにか全てを失ってしまったんだな」