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上:解放されたと思ったら

趣味は創作小説投稿、さんっちです。ジャンルには広く浅く触れることが多いです。


産まれた瞬間に決まっているモノなんて、無いはずなのに。

「カトレヤ、君との婚約は破棄だ」


とある晴れた午後のティータイム。紅茶を一口飲んだバロン・ヴィオント候爵令息は、目の前の婚約者カトレヤ・レマック子爵令嬢に切り出す。「実は・・・」と経緯を話そうとすると、彼女はガバッと立ち上がる。


「承知です、今までお世話になりました!」


えっ、と呆気にとられるバロンを置いて、茶会の途中で退席したカトレヤ。ヴィオント候爵家から出た彼女は・・・パァッと顔を明るくさせて、嬉しそうに駆け出した。


「感謝します、私を解放してくださって。どうかマーナ様と、お幸せに!」



母親同士が知り合いで、卒業して仕事ばかりな2人を勝手に心配して、適当に繋がっただけ。それは魔法研究組織で働く、古代魔法や神話生物オタクなカトレヤには死活問題だった。現実主義な騎士として、利便性の優れた魔法を使うバロンに「お前の趣味は無益だ」と、バッサリ切り捨てられたのだから。


あぁ、この男とは上手くいかない。しかしそんな理由で婚約破棄は出来ない。正当な理由や代案を持ってこなければ、実家は納得しないだろう。思い詰められ仕事も滞ってきた頃、カトレヤはとある少女に言い寄られた。


ーーーバロン様と別れてください!彼は私と繋がった方が、幸せなはずなんです。


マーナ・カーヅ男爵令嬢、可愛らしい見た目だがやけに野心家な娘。実家は魔法防具の作り手、騎士のバロンには自分こそ相応しいと聞いた時、彼女に押し付・・・譲ろうと計画。脳内で「貰って頂戴!」と叫びつつ、カトレヤは陰で奮起した。


2人の距離を縮めるように動き、結婚よりも儲かる事業を積み立てること数年。バロンから婚約破棄される展開まで辿り着き、カトレヤは数年間の我慢と将来の不安から解放されたのだ。


これで思う存分、自分の好きなことが出来る!否定され続けた、古代魔法や神話生物を研究しまくろう!「次の相手を見つけるの、大変ですね」と周囲から嫌味で言われそうだが、もう関係ない。


「生涯おひとりさまで良いじゃない!どうせこんな女、良い妻にも母親にもなれないでしょうし。実家には悪いですが、存続したいなら養子でも取ってください。


私は自分中心で行きますので!!」




婚約破棄から数ヶ月、カトレヤは今まで見ないほど元気に働いていた。数人分の仕事量を楽しげにこなす様子に、周囲は戸惑っている。「婚約破棄したんだって?」「だからヤケクソになったのか?」なんて会話も聞こえない。


(あぁ、やっぱり仕事が好き!相手に合わせるなんて無理!1人の今が幸せ!!)


「カトレヤ、お前・・・大丈夫か?」


朝から休憩もせず、ぶっ通しで仕事するカトレヤを心配して声をかけたゼルク・コルニス伯爵令息。カトレヤの上司で、学園では顔見知りの先輩だった。彼女の才能を見いだして、魔法研究組織に誘ってくれた人でもある。


「先輩、お疲れ様です。もう毎日が楽しくって」


「楽しいと言ってる割には・・・顔色が優れてないぞ」


え?と久しぶりに鏡を見た。化粧も最小限になった今、クマの濃い目元に貧血のような青白い肌と、いかにも体調不良の顔がドーンとあるではないか。流石に数か月間も休まず突っ走り、脳は気付かなくとも体は限界が来たのだろう。


「少し休め。倒れたら、それこそ働けなくなる」


「あっ・・・じゃあ、水を・・・」


そう言って立ち上がろうとした瞬間、グニャリと歪んだ視界。体調不良は何故、意識した瞬間に襲うのだろうか。目眩と吐き気、そして立ちくらみで膝から崩れた。「カトレヤ!?」とゼルクは駆け寄るが、彼女から返事は無い。


「くそっ、ちょっと我慢しろよ!」


ゼルクはカトレヤをガバッと抱きかかえ、医務室へ駆け込む。仕事ばかりで女性の扱いを全く知らない男だが、目の前で倒れた者は放っておけない。無事に応急処置を受け、安静に寝ている彼女を見れば、とりあえず一安心だ。


「ったく、無茶しすぎだ。明日からしばらく休めよ」


そう呟いて、眠るカトレヤの頭を撫でたゼルク。クマの濃い寝顔をジッと見ていると「少し宜しいでしょうか」と、医師が近寄ってきた。人に見られていると気付き、慌てて彼女に触れた手を離す。


「は、はいっ。どうしました?」



「彼女、妊娠してます」



数秒間、医務室の時間が止まる。


「・・・え、っと?妊、娠・・・」


「魔法検査にて、胎児の心拍が確認されました」


「た、胎児・・・」


あまりにも唐突な2文字の連続に、ゼルクは理解が追いつかない。確かに婚約者がいた身だ、子を成していても変ではないが・・・子どもが出来ていたのに、あの激務を数か月やってたのか!?再度カトレヤを見れば、のっそり彼女は起きてきた。


「んぅ・・・あれ、ここ・・・」


「医務室です、ゼルクさんが貴女を抱えてきたときは驚きましたよ。それに・・・妊娠しているにも関わらず、ここまで無茶をするなんて」


「妊・・・え?」


医師が先程と同じ説明すれば「ふぇ!?」と飛び起きた。


「え、ま、待ってください!間違いじゃないですか?だって私、()()ですよ!?」


自分でも突拍子もない発言だと思うが、それが真実だ。恋愛に興味が無いため、自分の趣味や仕事に没頭してきたカトレヤ。バロンとの関係もほとんど築かなかったので、彼と寝たことなど当然ない。


つまり記憶がある限り、そういった行為を誰ともしたことがないのだ。「こ、子供って1人でも出来るんですか!?」とトンチンカンなことまで言ってしまった。「んなわけねーだろ」とゼルクが慌てて突っ込む。


「カトレヤ、本当に誰とも経験が無いのか?」


「は、はい・・・」


だが混乱が落ち着けば、今度は不安と恐怖が襲いかかる。家でも外でも1人、魔法について研究してばかり。誰とも一夜を過ごしてないのに・・・。もはや怪奇現象に巻き込まれたようで、ゾッと背筋が凍った。


「・・・とにかく、今日からしばらく休むんだ。上にも言っておくから」


ゼルクの言葉に、コクンと頷くカトレヤだった。

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