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占い師の仕事~悪縁を物理的に断ち切る占い師の能力バトル~

作者: 橿原 瀬名

「占い師の仕事は、占いを当てることじゃない。

悪い結果を当てたって、客は不安のなかで不幸になっていくだけだ。

それならどうすれば良いと思う?」



無駄に甘いマスクを無精髭で台無しにしても、全然ワイルド系で通るような胡散臭い師匠の問いに、私はたしか、めんどくさそうに答えたと思う。



「知ってますよ。仕事で占う時には、カウンセリングの真似事でもすれば良いんでしょう?」

「違うぞギャル助。お前は根本から勘違いをしている」



ギャル助、師匠から私へのアダ名だ。私はこれでも化粧が大分派手だと自覚してるし、髪もほぼ白に近くなるくらい脱色してる。

妥当なアダ名だが、正直師匠のセンスはダサい。



「なんなんですか? 私がしてる勘違いって」

「それはな、運命ってのは『縁』が作るものなのを自覚してないってことだ」

「縁?」



世の中のことは、わりと運命というか、結局は才能をもって生まれたかどうかとか、環境とか、そう言う運で決まるのは知っている。

けど、それが全て『縁』の力で決まるって言うのは、どういうことだろう?



「簡単なことさ。確かに、お前のやってるタロットには、人の力じゃどうしようもない災害を象徴するカードもある。

ただし、それらのカードさえも、基本は人の縁による運命の変化を象徴するものだ。

災害が起きるかどうかなんて、占い師には分からんしな」

「はぁ?」



師匠は一呼吸おいてから、さらにこう続ける。私はとりあえず、真面目な顔してる時はホントにイケメンだよなー、この人。

巨乳に鼻の下伸ばしてる時がキモ過ぎて、抱かれたくないけどなー、と思いながら、師匠の言葉を聞き流すことにした。



「運命が変わるってことは、本人が変わるってことだ。本人の変化が、運命を変える。

これは何も綺麗事じゃないぞ? たくさんの人を占ってきたお前になら分かるハズだ」

「そりゃ、『逆もまたしかり』ですもんね。運命は変えられる。けど、運命も人を変える。

その相互作用に常に振り回されながら、人は生きている」


諦めなければ夢は叶うなんてのは綺麗事だ。けど、運命は変えられるっていうのは正論だ。

運命が人を変えて、人が運命を変えてる。

だから、夢が叶うかなんで誰も分からないし、そんな世界のなかで、少しでもマシな未来を掴もうとあがいた結果、人は幸せになる。


望ん通りの夢が叶わなかったとか、望んだ形の幸せが手に入らなかったからって理由だけで、立ち止まって全部を運命のせいにする人もいるけどね



「そうだよな。『逆もまたしかり』。悪い運命の流れに飲まれた、良いヤツが、悪人に墜ちて大量の人を殺す。

それが、なぜありふれたことなのか、直接そういう人間を占ったことがなくても、察しが付くハズだ」



そんなのは簡単だ。環境が人を作るって言葉もあるし、そもそも良い人だの悪い人だのは、『そのとき目の前にいる人間の視点』で見た評価にすぎない。



「それで、どういうことが言いたいんですか?」

「つまりだ。運命ってのはさ、幸せになりたいって目的で、色んな方向に動き回ってるたくさんの人間の、大きなうねりが作り出す流れだ。

その中で、悪い流れに飲まれたヤツが、不幸になる。じゃあどうすれば良いか?

答えは簡単だ。占いで悪い結果が出たとき、悪縁を断ち切ってやれば良い。

まあ、それが良い結果に繋がれば、だけどな」



そう言うと、師匠は何かを握って振り払う動作をした。すると、彼の手の中には、刀が握られていた。


「『断絶霊装』。霊の世界と人の世界の断絶を越えて、悪霊を斬る刃であり、悪縁を断ち斬り、呪いや不幸を断絶させる刃でもある。

銘は『錆彦』。纏った青錆から雷を放つ、俺専用の特注品さ」


それは『断絶霊装』そのものが特注品ってことなんだろうか。それとも、『断絶霊装』の中でも『錆彦が特別』なんだろうか?

まあ、分かったところでどうでもいいので、私は聞かないことにした。


それにしても綺麗だな、この緑色の刃。翡翠みたいだ。




「それじゃあ、行くぞ。悪縁を断ちにな」

「え?」

「昨日のお客さんだ。既に神隠しは済ませてある。寝てる間に意識だけを招いたから、夢だと思うハズだ」

「ああ、それで深夜に私を呼び出したんですね。悪縁を断つところを見せるために」

「そーゆーこと。察しが良いな、ギャル助」



ダサいアダ名は相変わらずムカつくし、師匠の言うことは8割くらい分からなかったが、まあそこは良い。

てきとーなこと言ってたら不意打ちでシバこう。


私がそんなことを考えている間に、師匠が千人一首の読み上げみたいな口調で、お経みたいなのを唱え始めた(後で知ったが、祝詞というらしい)。


すると突然、周囲の空間がぐにゃりと歪み――気づけば、そこは神社みたいな空間だった。

見れば、昨日ストーカーに悩まされてると相談してきたお客さんがそこにいて、なんかデカいモンスターとにらみ合っている。



「コウくんんんんんんん!! 好きよォオオオオオ!! ずっと一緒!! 嫌いになるなんて許さないぃいいいい!!」


デカいモンスターは一言でいうと、全身が目玉だらけの、牛乳みたいに白くて、ボールみたいに丸い体から大量の腕が生えてる化け物だった。


皮膚も乾燥肌って次元じゃないくらいガサガサしていて、樹木とプラスチックを足して二で割った質感をしている。


「キメラか。悪縁が生き霊と合体して、呪いになってやがる」


もう師匠の言ってる内容は全部理解できなかったが、スルーしておく。

生き霊って言うのは、生きた人の念が幽霊のように形になったヤツなので、まあ悪縁の化け物にストーカー女の生き霊が混ざったとかそういう話だろう。


知らんけど。



「――穿て」



師匠が呪文を唱えると、淡い緑の雷が、化け物に向かって放たれる。

化け物は愛しの思い人に夢中だったのだろう。体の6割が、雷の衝撃で弾けとんだ。



「邪魔をするなぁああああ!」



残ったからだを捏ねた粘土みたいに変形させながら、化け物は師匠に向けて、大量の手を触手みたいに伸ばす。

巷で大人気の海賊漫画でしか見たことがないな、腕がこんなに伸びる光景なんて。


しかし、師匠は飛んできた腕を全て切り払い、そして……。



「錆彦はな、斬り付けた相手の体の中に、雷を貯めておけるんだ。

そして貯めた雷は、俺がこう唱えれば、お前の体内で破裂する。――爆ぜろ」



次の瞬間、化け物の姿形は、巨大な光の塊に変化した。

まるで、割れた水風船から溢れだしたかのように、周囲に稲妻が撒き散らされる。

なるほど、体内から雷が溢れて破裂するって、こんな感じなのか。


私がそんなことを考えていたら、景色が元の、占いの館へと戻っていく。

それから風の噂で聞いた話だが、悪縁を断ってもらったお客さんは、ストーカーが階段から転んで落ちたことで、もう二度と付きまとわれないと安心しているらしい。


なんでもストーカーは、好きな男の彼女まで刺しに行った挙げ句、逮捕されても出所してから付きまとっていたヤバい女だそうだ。


後味の悪い話だし、師匠が少し怖くなったが、こうするしかなかったんだろうし、気にしないでおこう。


私はそう考えることにした。

 

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