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コルヌレクス・サーガ〜不死者の卵〜  作者: 涼森巳王(東堂薫)
十章 邪悪なる神

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第50話 ウンブラの最期



 十重二十重とえはたえに包囲する毒蛇。

 ケルウスは試しに歌ったが、まったく効果がない。この蛇たちは魔法の産物ではないのだ。生きた実物の蛇。それが、ウンブラの魔法で呼びよせられただけ。


 あわてて竪琴を背にかけなおし、ナイフに持ちかえる。が、これだけの数、すべてを退けられるとは思えなかった。

 せめてふつうの蛇なら、傷を負っても、ケルウスもコルヌも神の化身だ。再生能力がある。しかし、毒にやられれば息が絶える。ふつうの人同様に、あっけなく死んでしまう。


「ハハハ! 道づれだよ。おまえたちだけはゆるさない。ここで死ぬがいい!」


 叫びながら、ウンブラのひざがガクリと地についた。髪が急速に白くなり、ぬけおちる。そのまま、崩れるように大地によこたわる。魔力を使いはたしたのだ。


 ウンブラは死んだ。

 何が彼女をそこまでつき動かしたのだろう?

 邪神を復活させてこの世を滅ぼしたいだなんて、それほどまでの憎悪をいだいていたのか? いったい、誰に? それとも、すべての人間に?


「ウンブラの気持ち、私には少しわかる。私も復讐をとげた身だから」と、コルヌ。


 それだけの過去があったのだろう。

 ウンブラが不幸だったのは、彼女の痛みをともに嘆いてくれる友がいなかったことだ。


「悪しき魔女だが、おまえのために歌ってやろう。けれど、あとでな。今はここから無事に逃がれることが先決だ」

「せっかく復讐から解放されて、これからは自由に生きられるというやさきに、死にたくないなぁ。まだカルエムから目と鼻のさきにしか来てないのに」

「おれだってイヤだよ」


 だからと言って、この状況は絶望的だ。せめてフィデスがいてくれたら、多少は希望があった。戦士と呼べるほどの人物がいないのは痛い。ケルウスがナイフを使えるものの、本職は吟遊詩人。コルヌにいたっては、いるだけだ。


「コルヌ。すまない。旅につれだした直後に、このザマで」

「私は死んだら、コルヌレクスの箱庭で花になるのだろう? せめて、花でもいいから話せたらなぁ」

「聞くことはできるはず。おまえのために、毎日、歌おう」

「ダメもとで走って逃げだせば?」

「蛇は動くものを見たら攻撃してくる。今、とどまっているのは、おれたちがすくんで動けないからだ」


 輪の外側にいるヤツらは、すでに獲物はいないと思ったのか、スルスルと別の方向へ這っている。このまま、全部いなくなるまで、じっとしていればいいのだろうか?


 が、そう考えた瞬間に、おびえたロバがとうとつに走りだした。


「あっ! 行くな。私の荷物の運び手がいなくなる!」


 コルヌが叫んだ瞬間、その手のさきから金色の光が放たれた。コルヌレクスの神気だ。それがあたり一帯を西日のように照らし、まぶしさにケルウスは目を覆った。


 光がやんだときには、まわりじゅうの蛇たちは目をまわして気絶していた。ロバも視界がチカチカするのか、立ちどまってフラフラしている。


「これが魔法生物だったら、みんな消滅してたな。ものすごい威力だ」と言いながら、ケルウスはコルヌをながめて失笑した。


「おまえは接点から、コルヌレクスの魔法をひきだせるようになった」

「魔法使いか。なかなかいい」


 ロバの手綱を持ちなおし、ヒョイヒョイと蛇をよけながら歩いていく。


「ウンブラをこのままにしていくのか? ケルウス。ちょっと哀れだ」

「蛇たちが目をさましたら、窮地に逆戻りだぞ」

「それもそうか」


 まあ、旅立ちのよい景気づけになった。

 優美で優雅で、そのくせ、心には激情を秘めている麗人、コルヌ。

 彼と行く荒地はなんと甘美で愉快なのだろう。

 これからさきも、ずっと、この友と歩いていきたい。

 そう願うケルウスだった。




『不死者の卵』了

このあとにオマケの短編を掲載します。

掲載は翌日です。

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