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コルヌレクス・サーガ〜不死者の卵〜  作者: 涼森巳王(東堂薫)
九章 コルヌの眼差し

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第45話 竜の眼



 先日、神の夢で見たとおりだ。

 コルヌはまもなく散る。

 自身の命をかけてでも、復讐をなしとげたかったのか。

 ではもう、責めはしない。ただ、逝く友のために、歌を捧げなければならない。


「約束のサーガ。まだ最後までできていないのだが」

「仕上がりを待っていられない。私はもう逝かなければ」

「なぜ?」

「支払いのときだ」

「ウンブラか」


 ウンブラは有頂天なのか、舞うようにコルヌのまわりで円を描く。


「ほんとなら、マグナが陥落したときに受けとるはずだったんだよ。一日も早く。じゃないと、腐るからね」


 腐る。何が腐るというのか?


「せめて、あと数日待ってはくれないか?」

「だーめ」


 すると、コルヌが制した。


「いいんだ。これは約束だから。それに、おまえだって、私が早くいなくなるほうがいい」

「バカを言うな。おれはずっとおまえといっしょにいたい」

「これでも?」


 コルヌは黄金細工の花の眼帯を外した。

 完璧な美貌にただ一点の欠落を刻む、失われた右目。

 だが、今、そこには眼球があった。ただし、左と同じ薄紫色の甘く切ない瞳ではない。神聖でいて近寄りがたい、圧倒的な存在感を示す金色の竜の瞳。


 コルヌレクスがドラコレクスから引き継いだ印の写しだ。初体から奪われ、行方知れずになっていた、神との接点。一度はドラコレクスの化身が探しだし、守ってくれていたもの。


「なぜ、おまえがそれを? 以前、見たときは——」


 初めて会った日。ケルウスが眼帯の下に見たのは、美貌に痛ましい喪失だった。だが、今はそこに竜の眼がおさまっている。


「ノクスが持っていたんだ。殺したときに、彼から奪った」

「そうか。あのあとからか」


 もとよりコルヌレクスによく似ている。竜の眼を得たコルヌの姿は、どこから見ても神のそれだ。

 分身として新たな命を得たケルウスにとって、それは自分のようで自分ではない、むしろ憧れそのもの。


「コルヌレクス」

「この眼を埋めてから、神との対話が容易になった。これは神にとって大事なものなのだろう?」

「おれはそれを探すために人界へつかわされた」

「そうだろうと思っていたよ。おまえからは清冽な神の香りがする」


 そう言って、コルヌは白く長い指を、自身の右の眼窩につっこむ。


「コルヌ!」


 コルヌは竜の眼をとりだした。


「これをドラコレクスに返したくて、ここまで戻ってきた。竜神の影が探しているのは、これだとわかったから。でも、竜神は消えてしまった。おまえから、コルヌレクスへ返してくれ」


 コルヌの手から、竜の眼がケルウスの手のひらに載せられる。

 そのとたん、命をつないでいた最後の糸が切れたように、コルヌは倒れた。肌色が急速に青ざめ、冷たくなっていく。


「コルヌ! 死ぬな。まだ逝くな。まだ歌っていない。おまえに聞かせたいんだ!」


 抱きとめるものの、それはもう死体だ。息をしていない。


 ウンブラが蛇の体をひきずって近づいてくる。


「さあ、渡しなさい。それはもう、わたしのものよ」

「コルヌの寿命を奪ったくせに、これ以上、おまえに渡すものなど、ただの一つもない」

「ああ、ほら。そういうとこ。あんたのそういうとこが嫌い。キレイだけど使えないわぁ」

「ウルサイ! あっちへ行け!」


 セルペンスの顔をした人蛇は、チロチロと二つに割れた舌を見せながら、ケルウスに迫り、頭上から、かま首をもたげて見おろす。

 その邪な空気のどす黒さに、ケルウスはゾッとした。


 前にアクィラはウンブラを無欲だと言ったが、違う。この女はとてつもなく邪悪だ。誰しもがいだく小さな欲望ではない。あまりにも強い悪意なので、かえって欲を感じさせないのだ。想像を絶するほど大きな我欲をかかえている。


「マグナを滅ぼしたのは、コルヌの願いだったかもしれない。だが、おまえは後宮に変化の魔法をかけていた。その内にいる者たちの願望を吸収し、どんどん強く、激しく、暴走させる魔法だ。あれは誰かに頼まれたからではない。おまえ自身の目的のために使った魔法。そうだな? ウンブラ」


 ふふふと、ウンブラは笑うばかりだ。


「そして、後宮じゅうの欲望を限界まで吸いとったウィスは、おまえが持ち去った。何かの魔法を発動させる動力にするつもりだ」

「さすがはコルヌレクスの化身だねぇ。魔法についてよく知ってる。勘もいい」

「答えろ。おまえはコルヌの命を奪い、さらにはこの体まで自分に都合よく使おうとしている。神に感応し、神の巫子であったコルヌの体。魔法の媒体として感度が高いからだろう? きさま、この体に何かを降ろそうとしているのではないか?」


 黙ってケルウスをにらんでいたウンブラが、急にケラケラと高笑いする。


 魔術師はおのが魔法の目的を看破されると、それを隠しておけなくなる。隠密の効力を失うからだ。


「そうさ。あたしの悲願。あたしの目的はただ一つ。わが神を蘇らせること」

「おまえの神はドラコレクスではないのか? リーリウムより新しく、コルヌより過去の神はドラコレクスしかいない」


 ウンブラの目が禍々しく輝く。


「あたしの神はそのさが邪悪なるため、滅せられた。だが、誰にも引き継がれなかったがために、魂は永遠に生きておられる」


 ケルウスの背筋がゾワリと鳥肌立つ。


「まさか、おまえの神は……」

「セルペンスプエル。それが、あたしの神の御名さ!」


 歴代の極管理者のなかで、ただ一つ堕ちた神だ。

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