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コルヌレクス・サーガ〜不死者の卵〜  作者: 涼森巳王(東堂薫)
一章 いにしえの村レクシア

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第3話 コルヌの夜語り



 コルヌはそうとうに稼ぐのだろう。夜具は貴族が使うようなふかふかの羽布団だ。雪夜の寒さをよせつけない。

 くわえて、となりにならぶと女のようにいい匂いがする。白粉おしろいはつけていないから、洗濯された衣服や、つねに清潔に洗われた髪の香りだろうか?


 なんとなく、くすぐったい。

 が、コルヌ自身はなんとも思わないらしく、むしろ、体をよせてきた。


「ああ、やっぱり、人肌ってあったかいね。雪の夜にはこれに勝る暖房具はないね」

「おまえ、だから、おれを助けたのか?」

「私は寒がりなんだよ。何しろ、子どものころは贅沢をしていたので」


 部屋に暖炉はあるものの、今は火がついていない。煙が出るから、さっきのアレを刺激するのを恐れているのかもしれない。


「人を砂袋あつかいか」

「いいじゃないか。それで、おまえは命が助かったんだもの」

「まあ、そうだが。さっさと話せよ。さっきのアレは?」


 コルヌはあたためた砂をつめた袋を二人のあいだに置いてから、ゆっくりと話しだす。


「あれは不死者だ。竜が去ったあと、現れるようになった」

「竜は去ったのか?」


 それは残念だ。竜を見に来たのに。やはり、土地によっては、ウワサが届くのに何年もかかる。ウワサを聞いてすぐに旅立ったが、遅かった。


「竜が現れたのはもう二年も前だ。立ち去ったのか、それとも神殿を通って別の世界へでも行ったのか、それは知らない。ある日とつぜんやってきて、卵を生むと、そのまま消えた」

「ああ、もう。気になることだらけだ。竜の卵? その竜はどんな姿だった? ただのウワサではなく、姿を見た者があるのか?」


 我慢しきれずに、たくさんの質問を一度になげると、コルヌは考えながら、その一つずつに答えてきた。彼の処理能力は高い。


「その竜は山の上の古代の神殿あとに現れた。どこからか飛んできて、神殿があった場所に降りた。黒竜だ。背中にコウモリに似た翼があって、両前足は短く、うしろ足はズッシリ巨大で、金色の双眸を輝かせていた。神殿に匹敵する大きさがあり、この村にいるかぎり、どこからでも見えた。村人じゅうが見たよ。私も三階のベランダからながめた。なんのために現れたのかわからない。ただじっと、同じ場所にすわっているだけだったから。ふもとの街から王の軍勢がやってきて、神殿あとまで行った。そこで多くの兵隊が卵を見たと言っている。でも、その卵がどんなものだったのかまではわからない。私は見ていないので」


「竜のまわりを軍隊でかこんでいたんだろう? なんで消えたんだ?」

「夜の間に、こつぜんと消えた」

「村から見えるほど大きな竜が?」

「あれがいにしえの神か、その使いなら、どんな力を持っていても不思議じゃない」

「だからと言って、軍なら夜の見張りもいただろうに、誰一人見ていなかったのか?」

「そうなんじゃないか?」


 コルヌはじっさいに神殿あとで見ていたわけではないので、人伝に聞いた話を語っているだけだ。それ以上くわしくは自分で調べるしかない。


「それで、アレは? いくら古代に神殿があったからって、あんなものが常駐してたんじゃ観光どころじゃない」

「アレが何かはわからない。毎晩、夜になると現れて、外にいる者を見かければ、容赦なく殺す。家のなかにいれば襲われないので、村人はみんな日が暮れると隠れるんだ」

「竜が去ってから現れるようになったと言ったな?」

「竜がいたときには、あんなものはウロついてなかった」


 そこでコルヌは考える。


「じつは、この村には昔からの言い伝えがあって」

「どんな?」

「竜の卵を食べれば、不老不死になれると言うんだ」


 不老不死——


 たしかに、竜は神だ。多くの人間がそう思っている。ならば、神の卵を体内に宿せば、超常の力を手に入れられると考えるのは自然の理だ。


「不老不死か。それなら、王でも欲しがるだろうな」

「それはもちろん、人のもっとも恐れるのは死だろう」


 あるいは、王の軍隊は何も見ていなかったのではなく、竜を彼らの手で消したのかもしれない?

 不老不死をもたらすという竜の卵を手に入れるために?


「真実が知りたいなぁ。竜がいなくなったのなら、せめて」

「やめたほうがいい。危険すぎる。それに、王の軍隊はいなくなったが、まだ一部、残って神殿を見張っている」

「ふうん。でも、行かないわけにはいかないな」

「どうして?」


 ケルウスは枕元に置いた相棒の竪琴たてごとをかるくたたく。


「詩人だからだよ。いにしえの神々も、竜も、すべては過去の幻影となりつつある昨今にあって、サーガのような出来事が同時代に起こるなんて奇跡だ。おれは絶対に真相をあばいて、後世に残る一大叙事詩を歌ってみせる」


 コルヌはあきれたかもしれないが、ひきとめはしなかった。


「では、私に歌ってくれ。一番に聴かせると約束して」

「誓おう。おまえの光に透ける水色の瞳にかけて」


 誓いはかんたんに立てるものではない。それを果たせなかったとき、災いがふりかかる。

 だが、このときはなぜか、誓いたかった。コルヌとの友情の始まりに、少し酔っていたのかもしれない。

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