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コルヌレクス・サーガ〜不死者の卵〜  作者: 涼森巳王(東堂薫)
三章 王都の怪

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第15話 宮廷そぞろ歩き



 ラケルタから通行証をもらったので、宮中の多くの場所を歩けるようになった。入れないのは王の後宮ハレムと地下、宝物庫など一部の要所だ。


 ラケルタの執務室を出て、廊下を歩いていると、コルヌがたずねてきた。


「ほんとに卵が見えるのか?」

「どうかな。さっきはハッタリで言ったが。幻視者と言っても、何もかも見えるわけじゃない」


 たとえば、以前、カエルムの宿で見た夢。

 コルヌレクスと会った。だが、あの夢を真に見ていたのは、ケルウスではない。ケルウスは幻視者の能力で誰かの夢に感応しただけだ。真に見ていたのはコルヌではないかと、ずっと考えていたのだが? 少なくとも、カエルムのなかにいた誰かだ。


「さて、どこから探そう? ウンブラが持っているかどうかだけでも知りたいところだ」

「ならば、私はウンブラを探してみようかな」

「コルヌ。おまえを一人にするのは不安だな」

「心配ない。たいていの女は私に親切だ。もっと言えば、たいていの男も」

「それが心配だと言ってるんだよ」


 美しすぎる男が一人で王宮を歩いていれば、とんでもない陰謀にまきこまれかねない。


「おまえは人の形をした薔薇ばら白鷺しらさぎだ。あるいは星。誰もが手に入れたがる」


 言ってるそばから、どこからともなく現れた女官たちが、わらわらとよってきた。


「きゃー。スゴイ美形よ! 二人も」

「ラケルタさまより美しいわ」

「竪琴を持ってるけど、二人は楽士なの?」


 この調子なら、今日中にラケルタより美形が宮中をウロついてると評判になりそうだ。

 ちょうどいいので、女官たちの仕事部屋へ行って、情報収集にいそしむ。


「近ごろ、宮中では恐ろしい事件が続いているらしいな」

「そうなのよ。最初にプルクラでしょ。次にウルティカ。ププラ。ベルス。カルミナ。エコー。ほかにもたくさん……。みんな、野犬に殺されたわ」

「野犬かしら? お腹に大きな穴があいてたというわ。野犬のはずがない」

「でも、熊や獅子なら、誰も姿を見かけないわけないし」

「やっぱり、あのウワサがほんとなのかしら?」


 気になることを言う。


「あのウワサとは?」

「それがね。殺された女たちはみんな、少し前から、やけにキレイになったって評判だったのよ。だから、竜の卵のおかげじゃないかって」

「卵ね」


 竜の卵は不老不死。それは周知だ。殺された女たちは、その卵の力で美しくなったと言われていた。つまり、狙われたのは竜の卵というわけだ。


 ケルウスが考えこんでいると、女官たちはさらにさわぐ。


「ヘルバはよかったじゃない? おかげでライバルがみんないなくなって」

「みんなじゃないわ。まだまだいるわ」


 女官たちが一人の娘をさして言うので、ケルウスはたずねた。


「ライバルって?」

「襲われたのは、ほとんどが女官だから。ねぇ?」

「ラケルタさまのお手つきだったのよね。あの子たち」

「ヘルバも狙われるんじゃない?」

「やめてよ。怖いわ」


 ヘルバというのは、このなかでは一番の美人だ。ちょっと地味だが、よく見れば、とても整っている。目立つ花をつける雑草のような可愛らしさ。


「昨夜は陛下の愛妾が襲われたらしいじゃないか」


 それに対しても、女官たちは何やら妙な顔をする。みなで何やら目くばせしているのが怪しい。


「何か?」

「えっ? いいえ。なんでも」


 なんでもないという顔ではない。


「まさか、その愛妾もラケルタの?」


 女官たちはごまかした。


「もう行かなくちゃ。あなたたちも日が暮れる前には宮殿を出ていったほうがいいわ。通行証があれば、また来れるから」

「獣は夜になると出るのよ」

「また会いましょ? 約束よ。今度はもっとゆっくり」


 言い残して、そそくさと去っていく。


「隠してはいたが、おそらく、ラケルタの愛人だな」

「王の愛妾に手を出したと知れ渡れば、首がとぶかもしれないものな」


 女官たちは、ラケルタをかばったのだろう。


 その後もすれちがう兵士や女官から話を聞いた。水運びの下女の仕事を手伝いもした。結果、襲われたのは全員、女だとわかった。兵隊のなかにはスクトゥムとおぼしき人犬を見た者もあった。やはり、スクトゥムが犯人だろうか?


「卵は? ケルウス」

「まだ見えない」

「ほんとに卵は王宮にあるのか? 夜ごとの人殺しと卵は無関係かもしれないだろう?」

「まあな」


 行ける場所はすべて歩いてみたが、卵らしきものは探しだせない。容易に見つかるものならば、これまでに誰かが発見しているだろう。


 だが、わざわざ王宮まで来たかいはあった。

 そろそろ夕刻にも近くなったころ。その人物は自らやってきた。

 長い黒髪の美しい女だ。目が大きく、愛くるしい容貌に不釣り合いなほど見事な乳房。体はスレンダーで、それだけに腰のくびれがすごい。顔の下半分に薄いしゃのベールをつけている。


「ああ、ほんとだ。ウワサ以上の美形だわ。いいねぇ。綺麗だねぇ」


 名前を聞かなくてもわかる。間違いなく、ウンブラだ。禍々しい瘴気を全身からただよわせている。魔法を使うたびに生贄を用いてきた代償だろう。香水でごまかしているものの、死臭がしみついていた。


 アクィラもいい魔術師とは言えなかったが、ウンブラはもっと明確に悪い魔女だとわかる。


「コルヌ。さがってろ」

「いや、ここは私が」

「あれにふれてはダメだ。おまえの魂を穢れさせたくない」


 ケルウスが言うと、ウンブラは邪悪な視線をなげてきた。


「言ってくれるじゃない? あたしが怖くないのかい?」


 しまった。殺されるかもしれない。剣で対処できる相手ならともかく、魔法ではまったく対抗できない。


 薄暗い廊下で、ケルウスは魔女とにらみあった。

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