表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
34/50

(閑話)姫棋の推し飯

「うまあ」


 姫棋は後宮の端にある池のほとりで、胡餅こへいを食べていた。

 胡餅こへいとは、小麦粉を練った生地を薄く焼いた皮のことで、甘辛く炒めた豚肉と、薄切りにした玉ねぎが挟まっている。

姫棋は、その胡餅こへいを噛みしめ、天を仰いだ。


 ――甘辛という味付けは、人を駄目にする。


 そう、誰かが言っていた。気がする。

 一体誰が、甘いのと辛いのを一緒にしよう、なんて考えたのだろうか。甘いなら甘い、辛いなら辛い。普通はそういうものだろう。なのに、こんな風に甘さと辛さを混ぜ合わせてしまうなんて……。最初にこの味付けを考えた人に、声を大にして言いたい。ありがとう、と。


(ほんと、甘辛最高です) 


 仕事をしてきたあとだから腹が減っていた、というのもあるかもしれないが、噛みしめるたびに皮の柔らかな甘み、炒めた肉からあふれる香ばしい旨味、玉ねぎの爽やかな辛みが口の中で絡み合うと、得も言われぬ歓喜がこみあげ思わず涙が出た。


 胡餅こへいに使われている材料は、どれも安く手に入るものばかり。けっして高価な食材を使っているわけではない。でも素朴だからこそ、その旨さは、人の深いところに突き刺さる。


(おっちゃん、ありがとう)


 これを後宮まで売りに来てくれたのは、通称、「鉄板おやじ」と呼ばれているおっちゃんだ。カラカラの干からびた手足に、禿げあがった頭、薄汚れた手拭いを首にかけるその風貌はけっして小綺麗とはいえない。

 年齢不詳で、出身も不明。ただ一つ分かっていることは、彼はどんな料理でも鉄板で作るということだけだ。


「俺ぁな、お嬢ちゃん。鉄板で食いもんつくることに、命かけてんだ」


 何のために全てを鉄板で作るのかは分からないが、このおっちゃんからはどこか職人プロフェッショナルの匂いがした。

 姫棋もどちらかといえば職人気質だといわれるほうだ。このおっちゃんのこだわりも分からなくもない。

 だからだろうか、やけにこのおっちゃんとは気が合う。

 おっちゃんとは、ついつい会話に花が咲いてしまうことがあり、最近では姫棋がおっちゃんの屋台に行くと、焼き菓子をおまけしてくれたり、具をふやしてくれたりする。


 後宮の中に男が入れるおかげで、おっちゃんの作る食べ物にありつけるのだと思うと、男が後宮に入って来られるというのも悪くないな。なんて、姫棋は思ったりするのだった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ