とある噂
宇宙会。開催場所や時間帯はバラバラ。
幻の会とも呼ばれ、主催者の情報も、参加者の属性も、その全てが謎のベールに包まれている。
#宇宙会 #plzhmg
“Please help me , grey”の略ハッシュタグをつけ終わり、私はスマホの電源を切る。このアカウントを始めたのは、半年前のこと。後輩で噂好きの美咲が、いつものように私の席にやってきて騒がしく言う。
「先輩!宇宙会って知ってますー?なんか、宇宙人と知り合えるかもしれない場所なんですって」
まただ。新しいもの好きで、知ったかぶりを得意とする彼女は、自慢げにそう言った。昨年この会社に新卒で入社してきた時から、イマドキの女の子の権化のようだと感じてはいたが、社内のスキャンダルだけではこと足りず、遂にスピリチュアル方面にまで手を出したかと、半ば感心しつつ、
「うちゅうって、あの宇宙?地球の外のことかな?」
「ですです。惑星とか天体とかの宇宙です。今ネットで少し騒がれてるんですよ。どっかの大学のヤリサーなんじゃないかとか、大手企業のステマとか、新手の宗教団体とか、それはもう色々な。中には宇宙会仲介人なんかも出てきて、宇宙会と志望者を繋げてくれるんですって。なんか、紹介制のバーみたいじゃないですか?」
いかにも美咲がとびつきそうなネタである。多感な20代の女子にとって「特別感」は至高の存在だ。特に、学生から社会人に肩書きが変わり、守られた存在から、大海に、大海原に放り出された彼女らは、特別感を優越感に変換し、拠り所とするしかない。
「私もどうしても入会したくって、裏垢作って運営にアピールしてるんです。しまくったら、突然DMが来るかも…って噂で」
私も特別感に憧れないでもないが、そんな不確かで、不明瞭な存在を純粋に信じられる美咲を羨ましく思う。
「今時の若い子たちの間じゃ、そんな噂あるんだね。宇宙人とお友達にでもなれるのかな?まぁ、新しいものに興味が出る気持ちも分からなくないけど、私には縁のないことだな。あ、そんなことより、今は仕事に集中した方が良いと思うよ。15時までって課長に言われてた資料はもうできてるかな?」
そう言って話を切ると、バツが悪そうに自席に戻っていく美咲。言いすぎたかしらという心配をよそに、私も自分の仕事に戻ると、
「宇宙会って知ってますー?」
美咲の甲高い声が、またオフィスに響き渡った。今度は同期の山下に布教をしているようだ。既に宇宙会に行って、宇宙人にでも洗脳されているのだろうか。見上げるほどの楽観性に呆れつつ、私は彼女の元に駆け寄り静かに諭す。
「み、美咲さん!?」