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勇者の扉  作者: モルモチ
4/4

第4話 バレル始動

コンコンコン。


 扉を叩く音にジンは目が覚める。


 (ココは………………)


 おぼろげな視界には、見たことのない天井が映っている。


 (あぁ、そうか)


 段々と目が覚めるにつれ、昨日の出来事が鮮明に蘇る。


 「ジンさん、アレンです。もう起きてますか? 朝食が出来たので呼びに来たのですが」

 「あぁ、分かった。今いく」


 ジンは起き上がると扉を開く。

 

 「おはようございます」

 「おう、おはよう」


 アレンは、朝から爽やかに笑顔を向けてくる。

 2人は朝食を食べる為、リビングへと向かう。


 「おぉ、ジン君おはよう」

 「おっ、お前が昨日入った新人か」


 リビングにはズアじいともう1人知らない男が朝食を摂っていた。


 「あっ! ゼロさん、昨日は何処に行ってたんですか。また、明け方まで飲んでたんでしょう」


 アレンは男を見るなり詰め寄って行くが、


 「まぁまぁ、細いことはいいじゃねぇか。それより新人を紹介してくれよ」


 ゼロと呼ばれた男は、ニカッと笑い悪びれる様子もない。

 アレンは半分諦めた表情で、


 「ハァ〜、分かりました。コチラ昨日からバレルに加入してくれたジンさんです」

 「よろしく」

 「おう、俺はゼロだよろしくな」


 ゼロが手を出し握手をかわす。

 

 (力強いなこいつ) 

 

 ゼロは肩幅が広く、胸筋が分厚い。おまけに身長もある為、立ち上がると圧を感じる。

 そして、酒臭い。


 「ジンさん、先に朝食を摂ってしまいましょう」

 「そうだな」


 アレンに案内され2人は朝食を摂る。


 食べ終わるとズアじいが、


 「さてジン君。早速であるが、バレルの活動について話していきたいのじゃが」

 「分かった。俺は何をすればいいんだ?」


 正直、ジンは魔王から人々を救うとしか聞かされていない。

 

 (いきなり、魔王を倒しに行くとは言わないよな?)


 ジンは心の中でナイナイと首を降ったが、


 「今日から早速、扉を使って異世界に行こうと思っておる。メンバーも揃っておるし、準備が出来次第すぐ出発じゃ」

 「え?」

 「え?」


 ジンとアレンが同時に驚く。


 「もうですか? いきなりだとジンさん混乱されるんじゃ………………」

 

 アレンも初耳だったのだろう。

 ズアじいに聞き返すが


 「大丈夫だろ。扉に選ばれたってのはそれなりの強さを持ってるはずだ。そもそもジンはまだ異世界の話に半信半疑なんだろ? ココで話すよりあっちに行ったほうが納得するのも早い」


 横からゼロが理由を口にする。


 「そうですかね?」

 「そうだよ。な、老師」

 「ワシも考えたのじゃが、ゼロの言い分も一理あると思っての。ジン君さえ良ければじゃが、実際に異世界に行って説明しようと思う」

 「そういうことなら分かった。準備しよう」

 「でも、大丈夫ですか?」


 アレンが心配そうに話しかけるが、ジンとしてはどちらでも良く、


 (どうせ、俺のやることは無いだろうし)


 と、楽観視していた。


 「大丈夫だろ。何かあったらサポートしてやれ」

 「分かりました。では、準備しましょう」

 

 ゼロの言葉に、渋々納得したアレン。

 全員が準備を終えると、


 「では、行くとするかの」


 そう言ってズアじいは扉を開く。



 「………………っ!」

 

 扉をくぐったジンの先には、鬱蒼とする樹海が広がっていた。


 「気味が悪いな」

 「そうですね。ココはアルブの森と言って、いつもこんな感じらしいです」


 天気は晴れているはずなのに、アルブの森には、モヤがかかっているかのように薄暗い。

 森に入ったわけでもないのにもう既に不気味だ。


「ジンさんには少し、ココの異世界について説明しようと思います」

 「そうか、悪いな」

 「いいえ、まずは国からですね。ココはユリウス王国と言います。聞いたことは?」

 「ないな」


 ジンの中でユリウス王国は記憶にない。


 「僕達は魔王の生き残りが、アルブの森に逃げ込んだとの情報を入手し、確かめる為に来たんです」

 「ん? まて。生き残りって事は、魔王は倒したのか?」

 「そうですね。ジンさんの来る、1月ほど前に」

 「なんじゃそりゃ!?」


 なんと、ジンが来る前に魔王は討伐されていた。

 アレンはあっさりと口にしたが、


 「じゃあ、どうして俺達はココに来たんだ? 魔王を倒したなら用はないだろ」

 「いえ、生き残りが魔王の幹部なんです。名前をビル。僕達が魔王討伐のとき討ち漏らしてしまって」

 「要は残党狩りか?」

 「まぁ、そうなりますね」


 なんともアフターケアが充実しているギルドである。

 ジンとしては魔王を倒したのなら十分だと思うが

 

 「おかしいな? ギレット達はここに居たはずなんだが………………」

 「誰を探してるんだ?」


 さっきからゼロ達はアルブの森手前をうろついている。

 周辺は草原になっており、見晴らしがいい。


 「ざんとうがりですが、ユリウス王国から中隊が派遣されたんです。ギレットさんは中隊の隊長で、その方達と一緒に捜索する予定だったんですか………………」


 アレンの言う、残党狩りのイントネーションが少し気になるが、

 「人っ子1人いないじゃないか」

 

 見渡しても人の姿はなく、気配も感じない。


 「何かあったのかもしれんな。アレンよ、お前さんのサーチでちと探してはくれんか?」

 「分かりました。サーチ」

 

 ズアじいに言われ、アレンは魔法を発動する。


 (凄いな!)


 アレンの魔法を見たジンは心の中で称賛する。


 サーチとは一般的な魔法である。

 自分を中心として、魔力の波を薄く放つことで魔力の持つ相手と反応し、居場所を特定する魔法だ。

 魔力さえあれば比較的簡単な魔法だが、実際に使う者は少ない

 理由の1つに、汎用性が個人の魔力量によって左右されることが挙げられる。

 魔力が多ければ多いほど、サーチの範囲が広くなり、持続時間も長くなるが、逆に少なければ、範囲も狭くなり、持続時間も短くなるのだ。

 そして、対象は動きのあるモンスター相手に使うことが多い為、サーチを使ってモンスターを見つけたとしても、魔力が少なければ戦う前に魔力が尽きてしまう。

 そうなってしまっては目も当てられない。


 そのこともあり、サーチとは誰でも覚えられるが、誰でも使うわけでは無い魔法だ。


 サーチを発動したアレンだが、範囲が常人のそれを遥かに超えていた。

 魔力量が多いのだろう、1km、2kmと広げていき、

 やがて、


 「見つけました! アルブの森、北西9km先です」

 「やるじゃねぇか。流石、頼りになるな」

 

 肩をバシバシ叩きながら褒めるゼロだったが、アレンの声が強ばる。

 

 「待ってください。中隊は現在、複数のモンスターと交戦中です」

 「何じゃと、それは真か?」

 

 アレンの言葉にズアじいの表情が強ばる。


 「戦闘してるのは中隊なんだろ? モンスターくらい大丈夫だろ」


 ジンは、なぜそんなに焦っているのか分からないが、

 

 「いえ、モンスターの数が多すぎます。中隊は今、完全に囲まれている状況です」

 「急ぐぞ、走れ!」


 緊急だと分かり、ゼロの一声でアレンを先頭として森へと走り出す。


 「アレン、方向はこっちで合ってるのか?」

 

 走りながらジンはアレンに聞く。

 アルブの森の中は、ジメジメとしており、太陽の光を高くそびえ立つ木々が邪魔している。

 さらに樹海は方向感覚を失い、自分は真っ直ぐ進んでいるのかさえわからなくなってくる。


 「はい、大丈夫です。このまま、真っ直ぐ進みます」


 今は、広範囲にサーチを展開しているアレンに頼るしかない。

 しばらく森の中を走っていた4人だったが、


 「すまぬが先へ行っといてくれんか。情けないことに、年には敵わん」


 ズアじいが途中でバテてしまった。

 地面にペタリと腰をおちつかせると、


「俺も老師と一緒に後で追いかける。2人は先に行ってくれ」

 

 一緒に残る判断をしたゼロに促され、

 

 「分かりました。行きましょう、ジンさん」

 「おう」

 

 先を急ぐことにした2人。


 「このまま真っ直ぐ行くと、ゴブリン4体と鉢合わせします。任せても大丈夫でしょうか?」

 「了解! アレンは?」

 「僕は、木の上に潜んでいるゴブリンを倒してきます」

 

 真っ直ぐ進むとアレンの言葉どうり、すぐにゴブリンを発見。


 ギィギィ!?


 いきなり現れたジンに驚いた様子のゴブリン。

 その隙を見逃さず、腰に下げてあった剣を振り抜くと


 「ハァァ!!」


 気づくのが遅れたゴブリンを振り向く前に叩き斬る。


 ギャ〜!!


 1匹が殺られたことで、残りの3匹が武器を構えようとするが、


 (させるかよ)


 構える前にジンは懐へと迫る。

 腹に剣を突き刺し、右脚でゴブリンを蹴り飛ばす。


 ギィギィ!

 ギャ〜!


 飛ばした方向にはもう1匹ゴブリンがおり、一緒に倒れた2匹を、ジンはまとめて剣を刺し込んでいく。


 ギィギィ!

 

 最後の1匹は、勝てないと思ったのか武器を捨て、一目散に逃げていく。


 (逃がすかよ)


 ジンはゴブリンより早く駆け抜けると、後ろから容赦なく剣を突き刺す。

 そのまま後ろを向くと、剣を前に向かって振り下ろす。

 ゴブリンは、刺された箇所から頭にかけ、裂け倒れていく。


 「ふぅ~」


 ひとまず全てのゴブリンを倒したジン。


 「あっ、ジンさんも終わったみたいですね」 


 タイミング良く、分かれたアレンも戻ってきた。


 「おう、そっちも終わったみたいだな。コレも早速役に立ったぞ」

 「それは、良かったです」 


 ジンの言ってるコレとは、腰に下げた剣の事だ。

 ジンは行く時、剣は持ち合わせていなかったが、アレンが念のためにと持たせてくれた物だった。

 

 「これからどうする?」

 「実は二手に分かれようかと思っています。僕はギレットさんを探します」

 「ギレットって、確か隊長だったか?」

 「はい、サーチで反応したギレットさんが少し気になって。ジンさんにはユアさんを見つけてほしいんです」

 「ユア?」

 

 聞いた事のない名前に、ジンは首をかしげる。


 「ユアさんは、ユリウス王国で聖女をされている方なんです。今回も中隊に同行してくれて」

 「見つけるのはいいが、俺は場所も顔も知らないぞ?」

 

 ジンは今まで、アレンについて来ただけだ。

 サーチを使うアレンが居なくなれば探しようがない。

 しかしアレンは指をさすと、


 「大丈夫です。この方角を、真っ直ぐ進んでください。1番初めに出会った女性の方が、ユアさんです」


 (マジでか?)


 アルブの森は凄い樹海でサーチが無いと確実に迷子になってしまうだろう。

 周りを見渡しても似たような景色で、自分が真っ直ぐ進んでいるのかさえも分からなくなってしまう。

 アレンはジンなら出来ると思って、伝えたのだろうがこのままだと聖女を見つけるどころか、自分が迷子になりかねないが、


 「………………分かった。真っ直ぐ進めばいいんだな」


 少しの間考え込んだジンだが、アレンの言葉を信じる事に決めた。


 「ありがとうございます。ユアさんは回復魔法は得意としているのですが、自分を守る為の手段が無いはずなので、できれば早めに見つけてあげてください」

 「了解。お前も気をつけろよ」


 こうして二手に分かれ、ジンは言われた通り真っ直ぐ進む。

 

 (しかし、多いな)


 進むに連れてゴブリンの数が増してくる。

 ゴブリンはジンと同じ方向を向いている為、気付かれる前に、後ろから剣で首を刎ねる。

 中隊の連中だろうか、さっきまで聞こえてこなかった金属のぶつかる音と声が耳に響いてくる。


 ギィギィ!

 「ヒィー!」


 悲鳴のする方を見ると、ゴブリンに襲われている男がいた。


 「クソっ!」


 見過ごすわけにもいかず、ジンは助けに向かう。

 男だけを見ていたゴブリンは、後ろに立ったジンに気が付かず首を刎ねられる。


 「怪我はないか?」

 「あぁ、助かった」


 無事を確認したジンは、聖女を見つける為すぐに走り出す。


 「お、おい!」


 後ろから男が何か叫んでいたが、ジンは気にしている暇はない。

 助ける前に目印として木の枝を折っていた為、方向を間違えることなく走り続け、


 (あれは!)


 遠目に女性の姿を発見。

 1番目、そして周りに他の女性も見当たらない。

 ようやく聖女を見つけることが出来たが、

 

 (危ない!!)


 女性にゴブリンが襲いかかろうとしていた。


 「アクセラレーション」


 ジンは自分のスピードを上げるべく、強化魔法を発動し、一気に距離を詰める。


 (間に合え!!)

 

 

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