第3話 バレルとの出会い
(ココはいったい………………)
ジンはキョロキョロと辺りを見回す。
目の前に現れた扉をくぐったジンだったが、その先は家に繋がっていた。
「ようこそバレルへ」
声のした方を見るとココの住人だろうか? 青年が1人立っていた。
「ここへ来るのは初めての方ですよね?」
「あぁ、そうだ」
戸惑いながらも答えるジン。
「来たばかりでお疲れでしょう。どうぞこちらへ、ついてきてください。」
「………………分かった」
本当についていって大丈夫か悩んだが、今は判断できる材料が少ない。
ジンは少し考え、青年の後をついていく事に。
「コチラに座って待っていてください。今、飲み物とココの代表者を連れてくるので」
笑顔で青年に案内され、ジンはソファーに腰掛ける。
(代表者とはどんな人物だろうか?)
待っている間ジンは、色々と代表者の人物像を思い描いていた。
しばらくして
「お待たせしましたな」
青年が飲み物と代表者らしき老人を連れてきた。
「どうぞ」
「どうも」
「ズアじいさんもどうぞ」
「おぉ、スマンの」
青年が全員に飲み物を置き、ソファーに腰掛ける。
最初に青年が口を開き
「聞きたいことは色々あると思いますがまずは自己紹介を。僕はアレンと言います。隣に座っているのが………………」
「ズアという。皆からはズアじいと呼ばれておるが、まぁどちらで呼んでくれても構わん」
次に代表者である老人が自己紹介をしてくれた。
アレンは金髪に碧眼の見た目をしており、どこかの国の王子様かと見間違うほどのイケメンだ。
代表者のズアは顎に立派な白髭を蓄えており、ニコニコと物腰の柔らかい雰囲気をもっている。
「アレンにズアじいか。俺の名前はジンだ。よろしく頼む」
「ジンさんですね。よろしくお願いします」
3人が簡単に自己紹介を済ませ、
「ジンさんは多分、突然現れた扉からコチラへ来たと思うんですが」
「そうだが、何で分かったんだ?」
確かにジンは、扉をくぐって来たがその時は1人だったはず。なぜ、初めて会ったアレンが知っているのだろうか。
「僕も同じ方法でココに来たからです。ジンさんがくぐった扉には、高度な転移魔法がかけられているんですよ」
「それで俺はココに?」
「えぇ、それもただの転移魔法じゃないんですよ。ジンさんはルーベル王国を耳にしたことは?」
「無いな。」
「では、シルバード聖王国は?」
「それも無いが………………」
ジンにとっては、どちらも聞いたことのない国名だ。
「実は、扉にかけられている転移魔法は転移先が異世界へと繋がっているんです」
「………………ほ~う」
「あれ、反応が薄いですね。もしかして疑ってます?」
それもそうだろう。いきなり連れてこられた場所が異世界ですと言われ 「はい、分かりました」と、今の説明だけで納得する者がいるのだろうか?
アレンは不思議がっているが、
「いや、疑うというより頭の整理が追いついていないだけだ。ココが異世界だと実感も湧かないしな」
「そうでしたか。僕も初めのうちは半信半疑だったので気持ちはわかります」
「アレン殿もいわゆる異世界から来たのか?」
「アレンで良いですよ。僕も名前で呼ばせてもらうので」
「いいのか?」
「言葉も敬語と混ざっている感じがするので、普段遣いで大丈夫ですよ」
「分かった」
いきなりの名前呼び・敬語なしはジンとしてはとても助かる。
「アレンも異世界から来たのか?」
「えぇ、そうです。さっき口にしたシルバード聖王国。僕はその国から扉を使ってココに来たんです」
「そうなのか!」
どうりで聞いたことが無いはずだ。もしアレンの言っていることが本当ならば聖王国は実在し、扉も異世界へと繋がっていることになる。
しばらく考えていたジンだったが
「ホッホッホ、まぁそんなに深く考えんでもよかろう。すぐに信じろと言われてもムリじゃろうて」
今まで黙っていたズアが、フォローを入れてくる。
「そうですね。ジンさんは他に聞きたいことはありますか?」
「アレンが何とか聖王国の出身として………………」
「シルバード聖王国です」
「そうそれ。シルバード聖王国の出身として、ズアじいもそこ出身なのか? それとも、もう1つの王国に関係が?」
ジンはもう1つの国も気になっており、ズアじいに聞いてみる。
「勘がいいのジン君。シルバード聖王国はワシには関係ない。もう1つのルーベル王国がワシの生まれ故郷じゃ」
「じゃあズアじいも扉から来たのか?」
「いや、ルーベル王国は今いるココじゃ。ワシは扉から来たわけではない」
(そのパターンか)
扉が異世界へと繋がっているアレンの説明が正しければ、ジンが扉をくぐったココも異世界のはずだ。
(本当に信じて大丈夫なのか?確かに聞いたことない国だが、俺が知らないだけでココは異世界でもなんでもない可能性も………………)
頭の中でぐるぐると考えたジンだったが
「ズアじいさんが言われた通り、深く考える必要はありませんよ。これからじっくり分かってもらえれば」
(じっくり考えて出てくるのか答え?)
アレンもズアじい同様フォロー? してくれたが話を聞いてみても分からない事だらけだ。
「………………そうだな」
ジンは考えた結果、異世界というワードを一旦頭の隅に置いておくことを決意。
「扉と異世界の仕組みについては追々理解する。それよりどうして扉は異世界へと繋がっているんだ? わざわざ遊びに行くわけでもないし」
「鋭いの。それがジン君の前に扉が現れた理由にもなる」
「どういうことだ?」
「扉は誰しも現れるわけではない。選ばれた異世界でたった1人の前に現れる」
「選ぶ? 誰が?」
「扉がじゃ」
「ん?」
(おボケになったのかこのジイさん)
「扉がヒトを選ぶのか?」
「そうじゃ」
もう一度ズアじいに聞くが返事は同じ。
「まるで何処かの分厚い本に出てきそうな内容だな」
「どうしたんですか? 突然」
「いや、なんでもない。気にしないでくれ」
心の中で呟いたつもりが思わず声に出てしまった。
「じゃあ何だ。扉は生きていたりするのか?」
「そんなわけ無かろう。扉は生きておらんし、話もせん。常識じゃろ」
(その常識を覆されてんだよ、こっちは!)
今度は心の中で思いきり叫んだジン。
ズアじいの話を聞いているうちに段々と頭がこんがらがってくる。
「つまりですね。扉には人を選定する魔法陣が備わっているんです。選ぶ1人に求めるのは強さ。その異世界で1番強いと判断されれば扉が現れるんです」
「なるほど」
アレンが間に入り、足らずの説明に補足を入れることで少し理解できたジン。
「強さと言ったが何も力だけではないぞ。心も重要じゃ。数多を支配する力が有ろうとそれに流され、溺れれば扉が現れることはない」
そこにまた足らずの説明を入れるズアじい。
「つまりですね。扉は全てにおいて強い人を異世界で1人選び現れます。それに選ばれたのがジンさんなんです」
と、アレンは簡単にまとめてくれた。
「誰でも扉が現れないのは分かった。でも、それじゃあどうして扉が異世界へと繋がっているのか、説明になってないぞ?」
初めのうちに聞いた、扉は気軽に異界へ遊びに行ける便利な道具という訳ではないだろう。
まだなにか話していない重要なことが残っているはずだ。
ジンはそう思い2人に尋ねる。
「それはな、異世界に潜む脅威から人々を救うためじゃ!」
そう断言したズアじい。
しかし、こちらはポカンである。
「つまり………………どゆこと?」
ズアじいの説明で分からなかったジンはアレンに聞き返す。
「つまりですね。扉はいくつもの異世界へと繋がっているんですが、そこには魔王が支配している国が沢山あるんです。その魔王を倒せるだけの実力者を、扉は集め異世界を繋げているんです」
アレンは簡単に説明してくれたのだろうが、ジンは頭がこんがらがっている。
百歩譲って魔王が出てくるのはいい、ジンも魔王は知っている存在だ。
魔王とは人々にとって恐怖の象徴。欲望にまみれ本能のままに殺戮を繰り返し、老人だろうと子供だろうと慈悲はない。
存在自体は知っているが 何故それが魔王を倒すことにつながるのだろうか?
(何か面倒ごとの香りがプンプンするぞ)
そう思ったジンだが
「そこでじゃジン君。我々は異世界で、魔王に苦しめられている人々を救う為、バレルと言うギルドを設立した。どうか一緒に戦ってはくれんか?」
案の定、面倒事であった。
ジンは別に、魔王を倒したいとか困っている人を救いたいなど、善人な心は持ち合わせていない。
「申し訳ないが俺は………………」
断りを入れようとしたジンだったが、
「勿論、報酬も出すぞ。月に金貨10枚じゃ」
「何!?」
お金の話になるとジンの目の色が変わる。
「その話もっと詳しく」
「お、おう、そうじゃの」
いきなり前のめりになったジンに気圧されるズアじい。
かわりにアレンが、
「金貨10枚は、バレルに入っていただけるなら毎月支給されます。また、これとは別にモンスターを一定数討伐、魔王及びその幹部・仲間を倒すことによって更に報酬を追加する形となります」
異世界の金貨の価値は分からないが、大きく分けて銅貨、銀貨、金貨の3種類に分けられている。
銅貨1000枚で銀貨1枚
銀貨1000枚で金貨1枚 と同じ価値だ。
「どうかねジンくん。是非とも我々バレルと一緒に………………」
「うっす! よろしくお願いします」
ズアじいが言い終える前に、勢いよく頭を下げるジン。
「ジンさん、キャラが変わって………………」
あまりの変わりように、アレンが若干引いている様に見えるが気にしない。
(こんな美味しい話は他にない。別に俺が戦わなくても、アレンやズアじいに任せとけば大丈夫だろ)
そう軽い気持ちで引き受けてしまったジンだったが、これから待ち受けている未来をこの時はまだ知る由もなかった。
「そうか! そうか! ジンくんがバレルに加入してくれてワシも嬉しく思うぞ」
「そ、そうですね。これからよろしくお願いします」
ジンが了承したことで喜ぶ2人。
その向かいでは、大金に目がくらんだジンがニヤリ。
3人の間には想いは違えど、皆一様に笑顔が溢れていた。
「さて、だいぶ話し込んでしまったの。今日はこれくらいにして明日また話すことにしよう」
「そうですね。いきなりのことでジンさんも疲れているでしょうし。部屋にご案内します、付いてきてください」
そう言うとアレンは立ち上がり、部屋へと案内する。
「こちらが今日からジンさんの部屋になります。ベットや最低限の家具しか置かれてないので足りない物は買い足してもらわないといけないんですが………………」
「いや、十分だ。逆に準備がいいくらいだな」
ジンが今日来るとは限らない中、掃除も綺麗に行きとどいており、ベットメイクも完璧だ。
「いつ来られても大丈夫なように、定期的に行ってるんです。僕は隣の部屋なので何かあったら来てください」
「分かった。色々とありがとうな」
「いえ、こちらこそ。改めてこれからよろしくお願いします」
「あぁ、よろしくな」
言葉を交わした後、ジンは横になるためベットへ。
「ふぅ~」
自ずと口からため息が出る。
(今日1日だけじゃ、整理が追いつかねぇ内容だな)
扉に異世界、魔王、バレルとジンにとって初めての事だらけだった。
最後はお金の力でねじ伏せた形になってしまったが、
「まぁ〜、明日からまた考えるか」
考えたって答えは出てこない。
ならば、明日の自分に任せようとジンは決め、そのまま眠りについたのだった。