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#7 「一緒に帰るのよ!」

「ほんっと、期待して損したわ!」


 放課後、共に帰路につく伊沼はご機嫌斜めだった。

 一体なぜ伊沼と二人で下校しているのか。それは十五分ほど前に遡る。


 HRが終わると、拓斗が俺の席までやってきた。

 本来であれば、窓際に座る俺が廊下側の拓斗の席まで行くべきなのだろうが、これは昔からの習慣みたいなものだ。


「よっしゃ勇、帰ろ――……あーそういえば! 俺予定あるの忘れてたわ! 今日は先に帰るな!」


「え、あぁ……」


 慌ただしいやつだな。それにあいつ、顔色が青通り越して紫になってたけど大丈夫か?

 ぎこちない口振りで拓斗が駆けていった直後、次の来客がやってくる。


「――伊沼か、何か用か?」


 俺は座ったまま、伊沼を見上げて尋ねる。


「帰るわよ」


「そうか」


「……っ! そうか、じゃないでしょ! 一緒に帰るのよ!」


「え? 何言って――」


 そうして全てを言い切る前に俺は腕を引かれ、今に至るというわけだ。

 元々、伊沼の機嫌が悪かったのは帰りに始まったことじゃない。昼休みの時点で、俺に対する態度には棘があった。しかし、こうして思い起こしてみると俺が悪いのは明らか……なのだが。


 伊沼が口にした”期待”という言葉がどうにも引っかかる。

 一緒に帰ることを期待していたなら、現在進行形で実現している。そして、もし誘ってほしかったにしては俺の席に来るまでが早すぎる。


 果たして、伊沼は何を期待していたのだろうか。

 そう思っても、お冠な彼女においそれとは聞けなかった。


「……何よ、さっきからチラチラと」


「俺、そんなに見てたか?」


「ええ、それはもう私が気になってしょうがないみたいにね」


「気になって……まぁ、間違ってはないな」


 たしかに気になっている。伊沼の不機嫌の原因が。


「なっ……! あ、あんた本気で言ってるの……?」


「ああ、それこそ夜寝られそうにないくらいには気になってる」


「そ、そんなに……」


 そう言うと、伊沼は両手を顔で覆ってしまう。彼女の顔の赤さは、夕日に勝るとも劣らず鮮やかに映る。


 今の会話で赤面する要素なんてあったか?

 心当たりはないが、国によっては侮辱にあたる仕草があるという話もある。おそらくそんな感じで、種族の違いで感じ方が違うとかなのだろう。人間の俺には悪魔のことはさっぱりだ。


「……そこまで言うなら、いいわよ」


 深呼吸を繰り返し、落ち着きを取り戻した伊沼が俺を見つめる。

 本人からの了承も得た。俺は口を開き、伊沼に疑問を投げかけた。


「伊沼は、何を期待してるんだ?」


「……言っていいの?」


 緊張と期待が入り混じったような上ずった声。

 この時、俺は心のどこかで違和感を覚えていた。どうして伊沼は、こんなにも艶やかな表情を浮かべているのかと。

 それでも興味には逆らえず、俺は伊沼の問いに頷いた。


「じゃあ……家に着くまで手繋いで」


「……ん? まぁいいけど……」


 求めていた答えが返ってきた気はしないけど、それで機嫌を直してくれるなら安いものだ。

 何せ同じ家に住んでいるのだ。できれば平穏無事に暮らしたい。


「……はい」


 差し伸ばされた伊沼の右手を見て、昨日交わした契約が頭を過る。

 一人前のサキュバスになるための特訓、それに付き合うという話だったか。


 俺と手を繋ぐことが、伊沼の成長に繋がるのかは分からない。ただ、手を繋ぐことすら恥ずかしがる彼女が一人前になるには、相当な時間がかかるかもしれないと思った。

お読みいただき、ありがとうがとうございます。

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