#58 「俺、恋してるのか……」
「む、むむ……むむむ……」
む、難し……くない。難しくない。勉強してから臨むテストが、こんなに解きやすいとは思っていなかった。
俺は感動している。なんだ、テストって単なる復習問題じゃないかと思わず胡坐をかいてしまいそうになる。もちろん、そんなことをして足元を掬われては目も当てられないので、一問一問誠心誠意解かせてもらう。
とはいえ……
「うーむ……」
後半の大問は中々に手強い。というか、普通に分からない。
俺みたいな一念発起した生徒に百点満点を取られてしまえば、先生としてもプライドはズタズタになるだろう。これらの問題は、いわば平均点を調整するための難関問題の部類。これを難なく解けるようになって初めて、高成績組への仲間入りが果たせるというわけだ。
今回で点数が取れれば、俺も味を占めて勉強を頑張る可能性がある。それに、こうして難題を前にして解けないことに悔しさを感じている。俺は思っていたよりも負けず嫌いらしい。
「よし、こんなところか」
残り十五分。敵わない問題たちを除いて、解答したところはミスがないか確かめた。数学に関しては、試験中に安心感を得られるのが心強い。
解釈任せの文系科目よりも、案外理系科目が向いていたりしてな。
文理選択もそのうちにやってくる。と考えたところで、自分が真面目に将来に目を向けていることに驚く。拓斗とつるんでその場その場で生きてきたこれまでと比べると、今の自分がしっかりと日々を歩んでいるように思えた。
いつの間にか、伊沼から影響を受けていたようだ。いつも直球で素直な、彼女と共に過ごしている間に。
涙を零していたあの時の面影を感じさせないくらい、伊沼は強く生きている。
彼女は先を見ている。自分の境遇から吹っ切れ、前に向かって歩いている。吹っ切れすぎて、放課後の教室で俺の体操服を嗅いでしまうくらいだ。
……体調は良くなっているだろうか。
テストが終わるまで、まだ時間はある。夢の世界ならひょっとして会えたりしないか?
そんな無謀な閃きを実行に移すため、俺は顔を伏せ眠りについた。
「…………ん」
目を覚ました。やっぱりそう都合良くはいかないよな……って、なんで外に出てるんだ?
俺は周囲を見渡して景色を確認する。
見覚えのある校舎の外観。教室にあったはずの体は、棟と棟を繋ぐ空中廊下に佇んでいた。
空の青も草の緑も、どこか寂れた色合いをしている。穏やかな雲の流れに、俺は一つの結論に至った。
「まさか……!」
俺は弾かれたように中庭側に身を乗り出す。
想像通り、そこには小さくうずくまった伊沼の姿があった。この高校のものじゃない制服を着た、転入してくる前の伊沼。俺の閉じ込められた記憶が、最後の扉を開いたことの証明だった。
「俺、恋してるのか……」
それを考えるのは後だ。ここにイサムはいない。あの伊沼を助けられるのは俺だけだ。
決意が固まるよりも先に、足は動いていた。
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