#56 「自信はあるよ」
「はぁ……」
俺は月曜の通学路で、抑えようとしても出るため息を隠そうともしていなかった。
今日は中間テスト当日。だが、隣に伊沼はいない。
夫婦ごっこの途中で熱を出した彼女の体調は、未だ優れないままだ。
結局、土日は伊沼の看病をしつつ一人で勉強をすることとなった。
あの時伊沼が部屋を訪ねてきた本当の理由は、自作の小テストを手渡すためだった。朦朧とした伊沼からそれを聞いた俺は、すでに寝息を立てていた彼女に礼を言って、部屋を後にした。
小テストは手作りでありながら、完成度の高いものだった。というよりも、俺の学力を知る伊沼が作ったからこそ、俺に合った難易度になっていたのだと思う。
感謝してもしきれない。そんな彼女が、俺の落ち度でテストを欠席することになってしまった。幸い、欠席の連絡を入れた際に児玉先生から後日に受験できると言質は取れたが、できればこんなことにはなってほしくなかった。
そういうことで、俺は今落ち込みを隠せる状況ではなかった。傍から見れば、テストが憂鬱な学生という風に映るのかもしれない。
「よぉ勇! そんなしけた面して、テストは自信なしか?」
そう、こんな風に。
「自信はあるよ。今日まで色々助けたもらったからな」
「だよなだよな! お前に関しては、神楽先輩だけじゃなくて伊沼さんにも――……あれ? 伊沼さん今日は一緒じゃないのか?」
「……熱を出したんだ。今も寝込んでる」
「おい、マジかよ……」
これには拓斗も唖然とした様子で、眉をひそめていた。
何があったかについては、墓場まで持っていくと決めたから不必要に話したりはしない(というかしたくない)。
「うーん……そしたら帰りになんか買ってやるか。見舞いに行く気はないけど、それくらいはな」
「助かるよ」
拓斗も共に勉強会に臨んだ仲だ。多少なりとも思うところはあるのだろう。
「それにしたって、お前がそんな陰気な顔してたら世話ないぜ? 気を揉んで点数取れませんでしたじゃ、伊沼さんも報われないだろ?」
拓斗は肩をバシバシと叩きながら、そんなことを言う。
間違いなく正論だし至言だと感じたのだが、この間綾瀬に釣られて勉強会を放棄したことを思い出し、なんとも言えない胸中に落ち着いた。
素直に認めるのは悔しかったので、悪態をついて誤魔化す。
「珍しくいいこと言うじゃないか」
「なっ! ノーベルが生んだ名言製造機とは俺のことだぞ!」
ノーベル賞ものの名言ってことだろうか。それなら、爆弾発言の一つでも披露してもらいたいものだな。
まぁそれはそれとして、俺は俺でテストに集中するべきというのはたしかだ。いい報告ができるようにと、沈んだ気分を引き締めた。
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