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#54 「……着替えとか?」

 朝食を済ませ、これから何をするのかと言われれば、ひとまずテスト勉強だ。

 夫婦ごっこをしているからといって、中間テストの本番は遠のいたりしない。むしろ、そんなことにかまけていたせいで勉強が疎かになりました、とかなったら神楽先輩に合わせる顔がない。勉強的な意味でも、恋愛的な意味でも。


「さて、ワークも一通り終わってるし、苦手な単元の解き直しでもするかな」


 提出物の類が本番の数日前に終わっているなんて、前までの俺なら考えられないな。いつも一夜漬けで答えを書き写していたのが懐かしく思えてくる。……まぁ、そんなんだからいつまでたっても酷い成績を取っていたのだが。


 今回の俺は、これまでとは一味も二味も……いや、もう違いすぎて俺とは思えないくらいだ。先生たちも、俺の点数に度肝を抜かれることだろう。


「ふ、ふふふ、ふっふっふっ……」


「え、何いきなり。ちょっと気持ち悪いんだけど」


 ドン引きした伊沼が、部屋の入口に立っていた。

 俺は椅子から転げ落ち、仰向けになった状態で質問する。


「い、伊沼?! いつからそこに?」


 動揺する俺に、伊沼は知らんぷりだ。


 はいはい、分かりましたよ。呼べばいいんだろ?


「璃々、どうしてここにいるんだ?」


「今名前で呼ばれると、ちょっとゾッとするわね。さっき上がったあんたへの熱が、冷めそうになってたから」


「なんて無慈悲なんだ……。それで? 何しに来たんだ」


「用ならあるわよ。でも、用がないのに夫の部屋に来たらいけないかしら?」


 なんて堂々とした態度だ。しかし夫婦とはいえ、それぞれにプライベートはある。

 ここは最低限の遠慮を覚えてもらうためにも、苦言を呈させてもらおう。


「部屋に来るのは自由だけど、ノックくらいはしてくれ。俺にだって見られて恥ずかしい時があるんだ……色々とな」


 具体的には、可愛い女の子のイラストを見てたり、ネットで大人の女性の写真を見てる時とかなんだけど。

 そう声を大にして言えるわけもなく。やんわりと伝えることしかできなかった。


「……着替えとか?」


「そうだぞ。璃々だって、着替えの最中に俺が勝手に入ってきたら嫌だろ?」


 俺としては着替え中に来られても構わないのだが、伊沼がピンときているようなので、そこを攻めることにした。


「私は構わないわよ。夫婦だもの、下着姿の一つや二つ見せてもいいと思ってるわ」


 なん、だと……!

 その発言をきっかけに、記憶の奥底に沈めておいた、洗面所での一件が鮮明に蘇ってくる。


 肝心なのはその時見たあられもない姿ではなく、それを見た時に受けた報復の方だ。


「前着替えに出くわした時は、散々物を投げつけてこなかったか?」


「あれはまだ、そういう関係になってなかったから……。い、今なら! 見られてもいいと思ってるわ……」


 伊沼の覚悟は十分なようで、潤んだ瞳で俺をじっと見つめてくる。


 これ、どう答えるのが正解なんですかね……?

お読みいただき、ありがとうがとうございます。

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