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#49 「やっぱり名探偵様は目のつけどころが違う」

 今日はテスト前最後の登校日ということで、朝に勉強会が開催されることになっていた。だから俺たちは、この気まずさを抱えたまま家を出なければいけなかった。


 互いに顔を見られず、それでも自分の顔の熱だけは自覚している。きっと、おそらく、いや確実に伊沼も同じ状態のはずだ。初心な彼女が、か……間接キスに耐えられるとは思えない。

 この通り、俺も耐えられてはいられない。ということで、この日玄関を出た俺たちは二人して顔が赤かったわけだ。


「なぁお前たち、何かあったろ?」


 そうなれば、通学路で出会った拓斗にこう聞かれるのは分かりきったことで。


「……何も」


 俺は苦し紛れに短く答えを返す。


「そうかぁ? そう言っても、俺の目は誤魔化せないぜ」


 拓斗は俺の全身を舐めまわすように見ながら、時々「ふむ」だとか「ほう」と分かりやすい反応を取ってくる。伊沼に同じことをするのは、さすがの拓斗にも憚られたらしく、目を軽く俺の隣に向けるだけだった。


「勇は顔も赤ければ、汗も夏みたいにかいてる。顔の赤さだけでいえば伊沼さんだってそうだ。空調が壊れて暖房が出っぱなしになってたとかじゃなきゃ、説得力はないぜ?」


 そんなの説得力皆無だろ……。

 そうは思ったが、この窮地を脱することができる一つの光が差し込んだ。


 なら、賭けてみようじゃないか。拓斗の頭の悪さと調子に乗りやすさに。


「……そうなんだよ、よく分かったな。やっぱり名探偵様は目のつけどころが違う」


「そ、そうか? ……いやいや、そうだろ? どんな真実も、俺の前では自分から出てくるってもんだ」


 自信に満ちた表情、胸を張った姿勢で拓斗が豪語する。

 残念ながら、真実と思い込んでいるそれはお前の口から出てきたみたいだぜ。名探偵なら、自分よりも相手の口数を増やさないとな。


 とはいえ、()探偵のおかげであと一押しというところまできた。

 あとは伊沼にも協力してもらうとしよう。今回拓斗に追及された原因の一端は、彼女にもある。夫婦ごっこの予行練習として、共同作業でもしてやるさ。


「驚いたよ。伊沼もそう思うだろ?」


「そ、そうね……? 矢川君って鋭いのね、感心しちゃったわ」


「はは、ははは、あーはっはっはっ! そうかそうか! 伊沼さんも感心しちゃったか! これは勇の前で悪いことしちゃったかな~」


 白々しい俺たちの持ち上げに、拓斗の調子はうなぎのぼりだ。

 こんな乗せられやすい性格だと、美人局とかに騙されそうで不安だな。それどころか、キャバクラで破産しそうな勢いまである。まぁ、こいつは将来稼ぐつもりだし、黒字なら何も問題はないわけだ。


「(ひとまず助かったな……)」


 拓斗に悟られないよう体だけ傾け、小声で伊沼に語りかける。

 追及を逃れることが目的だったが、伊沼との気まずさ解消もおまけでついてきた。これは海老で鯛を釣ったといってもだろう。


「(これ、本当に成功してるの?)」


「(拓斗を見てみろよ。これが失敗に見えるか?)」


 俺が顎で拓斗をしゃくると、伊沼はふっと笑みを漏らす。


「(そうね、大成功だわ)」


 俺たちは顔を見合わせることなく、手元で小さくハイタッチを交わした。

お読みいただき、ありがとうがとうございます。

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