#44 「俺はまだまだだと思うけどな」
場所は変わって図書室。今日の昼休みは趣向を変え、いつもとは違う場所で集まっていた。
おまけに図書室で昼飯を食べていいときた。飲食厳禁とされる図書室内での昼食、とてつもない背徳感に舌で感じる味の濃さが何倍にもなったと錯覚した。
神楽先輩が言うには、結界を張っているため他の生徒が立ち寄ることはできないらしい。前に魔法を使えないと聞いていたのだが、結界は魔法に区分されないのだろうか。そんな疑問が湧きはしたものの、拓斗がいる前で質問するわけにもいかなかった。
「へぇ、今朝のHRでそんなことが。では、矢川君の恋路は一歩前進というわけですね」
「でへへ、そうですかね~」
「俺はまだまだだと思うけどな」
「私も同意見ね」
神楽先輩の肯定的な発言で油断しきった拓斗に、俺と伊沼が現実を突きつける。
俺も同じ立場だったら舞い上がっていただろう。しかし、今回は客観的に状況を見ることができる。そこから言わせてもらえば、一歩は一歩でも蟻の一歩目みたいなものだ。
「なんだよ二人とも、もっと盛り上げくれてもいいだろ?」
「同じ係になっただけで、恋仲に発展するとでも思ってるのか?」
「いや、そんなこと……なくはないけど」
それ見たことか。彼女いない歴イコール年齢の俺が言うのもなんだが、拓斗は見通しが甘すぎる。
拓斗の趣味は情報収集、校内のありとあらゆる噂話を食い物にする、人によっては嫌悪される人種だ。綾瀬に関しても、何かしらの情報を元手に近づいたのだろうが、撃沈したのを知っている。
「一度惨敗した相手だ。二度目のチャンスが簡単に転がってくるとは考えにくい。また断られて、連日ノート担当になるのは勘弁だからな」
「お、おう」
「矢川君の状態に関わらず、ノートは毎回取りなさいよね……」
ぐうの音も出ない正論と向けられた鋭い眼光をスルーして、俺は話を続ける。
「実行委員は、他学年他クラスからも男女で選出される。つまり、男だけでもライバルは二十一人いることになる」
「二十一人……」
ごくりと、拓斗が固唾を飲むのが伝わる。
「それに比べて、日直はクラスごとに隔離された係。同じ係でラブストーリーが発生するなら、俺の方が確率が高いってわけだ」
「なんだと……!」
「これでもまだ、自分が前に進んだと思うか?」
俺の雑な理論に、拓斗は度肝を抜かれたようだ。
これで納得しないなら頭を叩いてでも考えを改めさせようかと思っていたが、拓斗が単純なやつで助かった。
そう思った矢先、俺の両脇を伊沼と神楽先輩が固め、俺にずいっと顔を近づけてくる。
「まさか勇、綾瀬さんに気があるんじゃないわよね?」
「そうですよ。そこのところどうなんですか?」
「ちょ、ちょっと待って! どうしてそうなるんですか!」
俺は否定の強さを、拘束を振りほどくことで表そうとする。
「だって遊佐君、その綾瀬さんと日直なんですよね?」
「今朝もあの子のこと見てたわよね? 私の目は誤魔化せないんだから!」
だが、悪魔の力は想定よりも強く、二人と十分な距離を取る頃には肩で息をしていた。
「はぁ、はぁ、だからその考え方が間違ってるって説明を、したつもりだったんですけど……」
「お前、後半本気で身をよじってたよな……」
俺の全力の奮闘に拓斗は若干引き気味だ。いいか拓斗、お前が知らないだけでな、この二人は俺たちよりもよっぽどパワフルな種族なんだよ。特に神楽先輩は腕力に自信ありだ。
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