#42 「サボりの生徒を懲らしめたんだよ」
話が一区切りついたところで、携帯に連絡が入っていたことに気付く。送り主は拓斗で、昨日の深夜に届いたものだった。
「やばい! 完全に忘れてた!」
文面にはこうあった。
『お前明日日直だろ? 相方ちーちゃんなんだから、ヘマしたら許さないからな!』
……拓斗のやつ、あの子の日直まで把握してるのかよ。ちょっと引くぜ。
数ヶ月に一回の日直は、ランダムなペアでクラスの雑務をこなす係だ。まさか、今日に限って当番が回ってきていたとは。申し訳ないが、早速ヘマをやらかしそうだ。
何せすでに朝を迎えていたというのに、つい話し込んでしまったからな。そのせいで、家を出た時にはHRに間に合うかどうかの瀬戸際になっていた。もちろん朝食は取っていない。寝起きの体に鞭を打って、伊沼と共に通学路を駆けた。
「これ間に合うよな?!」
「そんなの私に聞かれても分からないわよ! 今は黙って走りなさい!」
喚く俺に伊沼も怒鳴り返す。近隣に住む人には、朝から騒々しいと思われたことだろう。
それから互いに言葉を交わすことなく、全速力で学校へと向かった。
荒々しく扉を開き、教室に勢いよく飛び込む。HRは始まっておらず、先生もいないようだ。
「はぁっ、はぁっ……間に合ったか?」
「はぁっ……分からないわ……」
俺と伊沼は、あまりの疲れで膝に手を置いていた。息を切らしながら俯く俺たちは、壁の時計にすら目を合わせられなかった。
「ギリギリセーフだな」
「あだっ!」
頭上への突如の衝撃に、思わず声を上げる。
刺客の方に目をやると、そこには担任の児玉先生が立っていた。
俺を殴ったと思わしき出席簿を肩に担ぎ、反対の手で無精髭を撫でる様子は、どこぞの輩と間違われも仕方がない。白衣を着ているくせに社会科の教師だというのだから、本当に変わった男だと思う。
「……何するんですか」
「サボりの生徒を懲らしめたんだよ。悪いか?」
「悪かないですけど」
「ちゃんと綾瀬に礼を言っておけよ? 朝の仕事はあいつが全部やったんだから」
先生の視線が、教室の後方に佇む女子生徒に向けられる。
釣られた俺の視線と交錯すると、彼女はぺこりと頭を下げてきた。
綾瀬千尋、ニックネームちーちゃん。物静かな雰囲気ではあるが、その性格の良さから男女問わず人気を集める清楚枠。拓斗曰く彼女と同じ係になった男は、すべからく彼女に恋心を――
「って、いだだだだ! 何すんだよ!」
何が不服だったのか、伊沼が俺の耳を強く摘まんできた。
抗議しようとする俺を伊沼はじとっと睨みつける。
「浮気しそうな男を懲らしめたのよ。悪い?」
「浮気って、まだ付き合ってすらないだろ?」
「耳真っ赤にしちゃって、馬鹿みたい……」
「それはお前がつねったからだ!」
「夫婦漫才もいいけど、そろそろ席に着いてくれ。HR始めるからな」
単なる言い合いが、どうして毎度夫婦芸扱いされるんだ……。
解せない気持ちで席に向かおうとして気が付く。俺たちの口論が、全クラスメイトに見られていたことに。
言い逃れは、もうできないような気がした。
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