#39 「今回の舞台は――」
瞼を開ける。辺りを見渡す。この手の既視感は、回数を重ねれば重ねるほど強くなるものだ。
どうやら俺は、三度夢の世界にやってきてしまったらしい。
「今回の舞台は――」
馴染みのある白い床、規則的に並んだ机と椅子、群れる若人。懐かしさを感じる、一年D組の教室だ。生徒の衣替えも済んでおり、すっかり秋の装いとなっている。残念ながら喧噪はくぐもっていて、当時の再現は雰囲気止まりといったところだった。
壁にかけられた時計は、十時半を指している。二限が終わったばかり、三限までの休み時間のようだ。
さて、どんな夢を見せてくれるんだ?
『勇、とぼけた顔してどうしたんだ?』
多少のワクワクから現実(といっても夢の中)に引き戻したのは、未だワイシャツだけの拓斗だ。
「あぁ、拓斗か。ちょっと考え事をな」
知った顔に出会い、安心感を覚える。今回は夢の住人とも会話ができるみたいだな。ここで「今って西暦何年だ?」なんて聞けば、タイムリープごっこが捗るというものだ。
俺の内心に反して怪訝そうな顔を浮かべた拓斗は、軽い足取りでさらに距離を詰めてくる。それから俺を通過し、その先にいる人物に声をかけた。
『なぁ勇さんよぉ、聞こえてるなら返事してくれって』
『あぁ、拓斗か。ちょっと考え事をな』
「……!」
拓斗に返事をした相手、その声を聞いて弾かれるように振り返る。
そこにいたのは、他の男子生徒同じく学ランに身を包んだ俺――一年前の遊佐勇だった。顔には靄がかかっていてよく見えないが、あれは俺だ。あの席、あの口振り、俺自身が俺だと保証する。
『考え事? お前らしくもないな』
『うっせぇ、俺だって考え事くらいするっての』
『本当か? どうせ神楽先輩との妄想とかだろ?』
それをきっかけに、懐かしい場所での懐かしいやり取りに火が点く。半年程度の過去を「あの頃は良かった」なんて懐かしむつもりはないけど、ノスタルジーという気持ちは理解できた。
この頃から色んなことが変わった。俺と拓斗は勉強に取り組んでいるし、伊沼と一つ屋根の下で暮らしているし、神楽先輩と話す機会も増えた。それに、俺の周りには悪魔がいる。あそこで話している俺には想像もつかない出来事が、この先彼を待っているのだ。
『拓斗、今日のノート頼んでもいいか?』
『なんだ、サボりかよ』
『そんなところだ』
『昼はどうすんだ?』
『来なかったら来ない』
そりゃそうだろ! という拓斗のツッコミを背中で受け、俺(区別できないから、以後イサムとする)は教室を去ってしまう。
どうしてだか分からないが、ついていくべきだという直感に突き動かされ、俺はその後を追った。
イサムはあてもなく外に出て、気の向くままに校内を歩き回っている。
どうして俺がそれを知っているかって? それはもちろん自分のことだからだ。俺も基本、ぶらりぶらりと気まぐれに散歩している。屋上の鍵が壊れているのも、散歩中に見つけたものだったりする。
『ん?』
空中廊下の道中で、イサムが何か見つけたようだ。彼の目線の先は中庭、俺も身を乗り出して様子を確認する。
「あれって……」
中庭の角のぽつんとした人影。いや、事情を知らなければそうとすら認識できないあれは悪魔の影、小さく身を縮めている伊沼だとしか考えられなかった。
「……驚いたな」
これは夢だ。でもただの夢じゃない。魔法によって封じられた記憶、その再現だった。
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