#35 「あんたのこと待ってたのよ」
ユニークPV500人突破、ありがとうございます。
そんなこんなで日は沈み、空には鈍色が広がり始めていた。暗くなりすぎると神楽先輩の身も心配(吸血鬼的には夜の方が強いらしい)だということで、今日の勉強会はお開きとなった。
例のごとく先輩を駅まで送り、家に戻る。
結局食べず仕舞いだった焼き菓子の感想は、明日にでも伝えればいいだろう。拓斗にも包装して持たせてある。ちーちゃんとやらに心を掴まれていても、有名人からの頂きものであればあいつも吝かではないはずだ。
そういえば、後半は騒ぎっぱなしでほとんど勉強は進まなかったな。教えてもらえること自体は助かっているけど、この調子で本当に大丈夫なのか?
なんて、万年サボり屋の俺が何を心配しているんだか。勉学にも身を置くとはいえ、俺は最低限――赤点などの進級の危機に瀕する点数を取らなければいいと思っている。難しいことは、賢い悪魔たちに任せるとしよう。
自室の扉を開ける直前、俺はそう他力本願な考えでオチをつけた。
「あれ、まだいたのか?」
部屋の中には伊沼の姿があった。俺が送迎をしている間に片付けてくれていたらしく、家を出る前よりも室内がすっきりして見える。もう自分の部屋に戻っているものかと思っていたが、何か用でもあるのだろうか。
「あんたのこと待ってたのよ」
「俺を?」
たしかに、俺を待つのであればここ以上に最適な場所はない。
「今日、矢川君との恋愛騒ぎであまり勉強できなかったでしょ? だからお詫びに、個人レッスンしてあげようかと思って」
「あー、そういう……」
「何よ、もしかして不服?」
「いやいやまさか! まさか勉強会後も勉強するのかーとか思ってないからな!」
「馬鹿正直な白状、感謝するわ」
伊沼の目元が鋭く細められる。
……しまった! 気が緩んでいたあまり、つい本音が口から漏れて……。
「私だって無理強いするつもりはないわよ? ……でも、わざわざ勉強会を開いてくれたんだし、ちょっとくらいは成績良くなってほしくて。その……私たちが騒ぎ立てたのが原因だってことは分かってるから、今日の分は責任を取らせてほしいの……」
上目遣いで、懇願するように俺を見つめる伊沼。悪魔に相応しい、なんとも卑怯な手段で俺から選択権を奪っていった。
くっ……! そんな風に頼まれたら断りたいものも断れないじゃないか! これを断れるやつがいるとしたら、そいつが真の悪魔だと断言できる。
生憎と俺の生まれは悪魔ではない。ここで俺が取れる行動は、大人しく頷くことしかない。
「わ、分かったよ……。ちょうど俺も、今日は進捗が悪いなと思っていたところだったんだ」
「本当?! 私たち気が合うわね!」
渋々の返事でそこまで顔を輝かせられると、罪悪感が芽生えてしまいそうになる。まぁ、乗り気ではなかったにしろ、さっきの言葉は事実だ。だから気が合うというのも、あながち間違いではないということなのだろう。
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