#32 「こんのっ、馬鹿野郎が……!」
カリカリと、シャーペンと紙が擦れる音が響く。音の出所は一つではなく、二つ三つと幾重にも聞こえる。
その音の一つが、ふと鳴り止んだ。代わりに音を発したのは、シャーペンの持ち主本人だった。
「やっぱ我慢できねぇ! 勇、俺は聞くぞ、絶対に聞くからな……」
鼻息を荒くしながら俺を見つめる拓斗。そんな様子に、残りの音もパタリと止んでいく。
「いきなりどうしたんだ。勉強会の最中だぞ?」
「その勉強会がおかしいって話だよ! 周りを見てみろ!」
拓斗に言われるがまま、俺は周囲に目を向ける。
まず、今回の舞台になっているのは俺の部屋だ。伊沼のアクセスも踏まえて、ここが一番集まりやすいという話に落ち着いたのだ。そして、部屋の中心に位置するテーブル。それを取り囲むように、俺、伊沼、拓斗、神楽先輩の姿がある。
今のところ、特におかしな点は見当たらないが。
「待て待て、そこで首を傾げるのもおかしいだろ……」
「すまんな拓斗、俺には何がなんだかさっぱりだ」
「こんのっ、馬鹿野郎が……!」
物分かりの悪い(らしい)俺に、拓斗は歯噛みする。
それを宥めようと手を差し伸べたのは、伊沼と神楽先輩だった。二人は一度俺を見た後、拓斗に対してゆっくりと首を振る。
「ダメよ矢川君、勇がどうしようもない馬鹿なことは周知の事実なんだから。時に真実は残酷なものなのよ……」
「そうですね。それに、その残念な頭をどうにかするために今回の勉強会があるんですから」
……なんか俺、すごいボロクソに言われてないか? 二人って、俺のこと好きなんですよね……?
自分への好意を疑うほどに、二人の俺への評価は散々なものだ。どうやら俺の学力というのは、悪魔のものよりも悪魔じみているらしい。
とはいえ、俺も小学生の頃は成績優秀で先生に褒められたものだ。つまり、勉学を疎かにし始めた中学時代に堕天してしまっただけで、元は天使だったに違いない。俺の現在の成績は、あくまで堕天使になったことが原因なのだ。俺はこの勉強会を通して、再び天使に舞い戻ってみせる!
俺は決意を親指に乗せ、拓斗にサムズアップする。
「拓斗……俺は恋愛を捨てることなく、天使に戻るからな」
「何言ってるんだ、お前?」
ふっ、分からないか……。それでもいいさ、直にお前も理解することになる。自分の出自が天界であったことに。
「まぁ、どうして俺が呼ばれたのかはめちゃめちゃ気になるけど、こうして勉強で切磋琢磨できるのはありがたい話だぜ。おまけに神楽先輩までいるんだ、今度のテストは先生たちの目玉をぶっ飛ばすこと間違いなしだな!」
野望を語り、拓斗は高々と笑う。
その表情、その声が、同席している悪魔を上回る悪辣であったことは、鏡を見ていない拓斗には知る由もなかっただろう。
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