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#26 「私、弄ばれてるって思ったんです」

「す、好きな人って……俺のことですか?」


「他に誰がいるっていうんですか?」


「いや、それは……えっと……」


 答えに詰まると同時に、考えがまとまらなくなる。

 神楽先輩が、俺のことを好き? 冗談にしては、この場にそぐわなすぎる。


『だって遊佐君、時々私のことを熱っぽい目で見てくるし……。……それに、美味しいの血の匂いがしたので』


 なんて、図書室では言っていたな。あの時は二個目の理由に釣られてしまったが、神楽先輩の真意をもう少し探らないといけない気がした。


「自分で言うのはすごい恥ずかしいんですけど……神楽先輩はなんで俺のことを好きになったんですか?」


「そうね、私もそれは気になるわ。これまで先輩とはほとんど接点なかったんでしょ?」


 俺は首を縦に振り肯定する。

 俺が、神楽先輩の好意を鵜呑みにできない理由はそこにあった。伊沼との出会いみたいに忘れてしまっているならともかく、俺に神楽先輩が惚れるほどの魅力があるとは思えなかった。


 ……うん、我ながら冷静な分析だ。今夜は枕を濡らしてもいいくらいに。


 神楽先輩は、前で組んだ手元を落ち着かなそうに動かしている。時々俺をちらりと見る目元も、どこか揺れているように見える。

 青い俺の胸中に対して、目の前の神楽先輩の顔は赤みを帯びていた。


「……笑いませんか?」


「笑いませんよ」


「前に言った通りなんです。遊佐君は受付にいる私をいつも見ていました、それも熱い視線で。でも、それで私が目を合わせようとすると逸らされて……」


 ……ん? 目が合うのが恥ずかしくて逃げてたのも全部バレてたのか? となると、俺結構感じ悪いな。


「私、弄ばれてるって思ったんです。初めての経験でした。悪魔とのハーフってバレないようにって、あまり人間と関わらなかったせいか深窓の令嬢だって勘違いされてましたから。そんな私を、まさか手の平の上で転がそうとする人が現れるなんて……。そう思ってるうちに、気付いたら遊佐君を目で追うようになってたんです」


「えーっと、つまり……」


「あんたの中途半端なアプローチが、先輩の恋心を焚きつけたってわけね」


「そ、そんなことって……」


 これ、神楽先輩がチョロすぎるって話じゃないのか?

 責任転嫁もいいところだが、そうでもしてないと事態が飲み込めなかった。


「無自覚ってところが救えないわね。あんた、相当な悪魔たらしよ」


「そうですよ。……責任、取ってほしいんです」


「ちょっと、どさくさに紛れて抜け駆けしないでよ」


「あれ? 今って私のターンじゃないんですか?」


「違うわよ!」


 俺が混乱している最中でも、二人は変わらず騒々しい。


 二人は、これに納得してくれるだろうか。これが正解かは分からない。それでも、俺は自分の言葉で伝えることが大事だと思った。


「神楽先輩の気持ちは分かりました。けど俺、なんだかんだ言って神楽先輩のこと全然知らないんです。噂とかは色々聞いたけど、話始めたのは最近だし……。だから、神楽先輩にも時間をもらいたいんです」


「神楽先輩”にも”?」


「俺、前に伊沼に告白されたんです。実は、その時も同じように時間をもらってて……。この返事に幻滅して、俺を見限っても構いません。でも俺は、相手のことを知らずに結論を出したくはないんです」


 キープという行為を正当化した、クズをエゴで塗り固めた答えだ。

 告白の返事としては、最底辺の部類に違いない。


 いざという時にどっちつかずな選択をするつもりはない、か。どの口が言っているんだ。どこからどう見ても、これこそ”どっちつかずの選択”だった。


「それなら心配いらないですね」


 朗らかな声は、神楽先輩のものだ。

 最初の一言で俺は糾弾されるものだと思っていたが、声色はそれを否定していた。


「私、遊佐君以外の男の子になびくつもりはありませんから。じっくり私のことを知ってください。それで決めてもらえるなら本望です」


「そうよ。私も先輩も、あんただから好きだって言ってるの。それに互いに気が早いことも分かってる。だから勇は、私たちのことを知る権利があるわ」


「神楽先輩、伊沼……」


「その結果私が選ばれたとしても、伊沼さんは祝福してくださいね」


「何言ってんの? そっちこそ、私に送るブーケの予約しておきなさいよ」


 俺は恵まれている。こんなにも真っ直ぐな好意を向けてくれて、俺の不甲斐ない答えも受け入れてくれるなんて。こんな都合の良い話、あっていいのだろうか。

 決心した。今度は後悔のない選択をして、二人の優しさに報いると。そのために、二人のことをもっと知ろうと。

お読みいただき、ありがとうがとうございます。

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