表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
25/64

#24 「死んだかと思った……」

 図書室での諍いを終え、伊沼と神楽先輩は決戦の日までそれぞれに力を蓄えるターンを迎えた。……俺はてっきりそう思っていた。


「ほら遊佐君、卵焼きですよ。はい、あーん」


「ちょっと! あーんは、私もまだしたことないんだから!」


「そうですかー。でも、こういうのは早いもの勝ちですよ」


 昼休みの屋上で、俺を挟んで舌戦が行われる。そしてこれは、何も今日に始まったことではない。神楽先輩は吸血鬼発覚以降、昼休みは欠かさずここに足を運んでいる。俺たちの昼食場所をどこから知ったのかは分からないが、おかげで伊沼とは毎日この調子だ。


「遊佐君、さぁどうぞ」


「あ、待って! 私も……!」


「ふぐっ……! む、むむむ……ごはっ!」


 二人は競う姿勢を崩さないまま、我先にとおかずを俺の口に突っ込んでいく。

 押し寄せる窒息ゲージに、俺は思わず激しく咳き込んだ。


「げほっ、げほっ……死んだかと思った……」


「俺は吐血するかと思ったぜ」


 地面に手をつき懸命に酸素を吸う俺に、拓斗が冷ややかな視線を向ける。

 再び俺たちと昼食を食べるようになってからというもの、拓斗もこの光景は何度も目にしている。さすがに呆れるのも無理はない。


「勇、知ってるか? この国ではな、重婚は罪になるんだぜ? 重婚罪の法定刑は二年以下の懲役だ」


「……へぇ、随分と詳しいんだな。勉強の成果か?」


「おうよ。俺、友達が捕まるなんて勘弁だからな」


「それは安心してくれ」


 俺だって、いざという時にどっちつかずな選択をするつもりはない。

 そんな不誠実な対応、誰も望んではいないのだ。


 それにしても、予想外すぎる展開だ。恋(?)のライバルとなった二人は、あろうことか決着をつける前にこうして鍔迫り合いを演じている。漫画とかなら、こういう時Xデーまでは準備を整えたりするものだが、ここは現実、神様も都合の良い流れは作ってくれないらしい。


「二人とも、ちょっと聞きたいことが」


「何かしら」


「なんですか?」


 こうして質問した時は、素直に応じてくれるのが唯一の救いだといってもいい。


「その……今って休戦期間だったり?」


 口にしてようやく、”休戦”というのは中々に直接的な言い回しだと思い至る。

 伊沼がサキュバスで神楽先輩が吸血鬼であることは、俺以外は知らない。当然、二人が俺を狙っている理由も。そもそも、二人が争っていると校内の誰が思っているのだろうか。


 自分の考えなさに頭を抱えたくなった。


「休戦も何も……私たち、今絶賛戦闘中よ」


「そうですね。どちらが先に遊佐君をものにできるか戦ってるじゃないですか」


「……え? え? 勇、この二人って本当に……!」


「……どうやらそうみたいなんだ。……心当たりは全くないんだけど」


 伊沼との件は記憶から消えているし、神楽先輩に向けられているのは恋心なのかも分からない。仮に恋愛対象として見られているとしても、神楽先輩とは接点が少なすぎて何がきっかけかはさっぱりだ。


「おいおい勇、そりゃ大儲けじゃねぇか! だってお前、ずっと神楽先輩のこと気になってたんだろ? 一時期、口を開けば神楽先輩神楽先輩って――」


「た、拓斗! お前喋りすぎだぞ!」


 俺は慌てて拓斗の口を塞ぐが、時すでに遅し。拓斗の話を聞いた神楽先輩は、喜色に満ちた表情で両手に腰を当てて言った。


「伊沼さん、分かりましたか? 遊佐君の心は最初から私にあるんですよ」


「そうやって過去の栄光に酔ってればいいんだわ。私は最近、勇に『可愛い』って言われたんだからね!」


「なっ、伊沼?!」


 自慢するのは結構だけど、頼むから俺を辱めないでくれ! ……おい拓斗! なんでお前はちょっと引いてるんだよ! 可愛い子に可愛いって言って何が悪いんだ!


「遊佐君、本当なんですか?」


「その真偽、俺も気になるぜ」


 異色のペアに詰め寄られ、背中が扉と当たった時点で観念する。


「……言ったよ。俺は伊沼に、可愛いって言った」


 俺の人生の中で、この日を超える羞恥はないと心の底から確信していた。

お読みいただき、ありがとうがとうございます。

面白い、続きを読みたいと思ったら、☆評価や感想などを頂けると励みになります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ