#23 「それは私のセリフなんだけど」
「それで神楽先輩、説明はしてもらえるんですよね」
「説明といわれましても……」
依然として暗闇が支配する図書室で、俺は悪魔たちと顔を突き合わせていた。
この場において、人間の方が少数派というのは居心地が悪い。魔法を行使できない俺は、彼女たちに力でも敵わないのだ。それでも、一番の被害者ということで強気に出ることを許してほしい。
「一体、どうして俺を狙ったんですか」
「だって遊佐君、時々私のことを熱っぽい目で見てくるし……。……それに、美味しいの血の匂いがしたので」
「……二つ目が本音ですか」
「それだけじゃありません……! 私、遊佐君となら本当に――」
「はいはい、今さら縋ってももう遅いわよ。ふんっ、相手のことを考えられない先輩に、勇は渡せないわね」
手を叩いて強引に話を断った伊沼は、神楽先輩に勝ち誇った笑みを浮かべる。
……この前も思ったけど、俺の意思は尊重されない感じなのか?
「あ、あなた……! こっそり体操服を嗅ぐよりはマシです!」
「なっ、なんであんたがそれを……! まさか勇……」
「言ってない言ってない! そんなこと口滑らせたら、俺だって変人扱いされるだろ!」
鋭い視線に身を跳ねさせて、俺は全力で抗議する。
「あの日は廊下を歩いてたら、たまたまあなたの恥ずかしい現場を目撃しただけです。……決して! 決して遊佐君の使用済み体操服は狙ってません!」
そこだけ強調されると、むしろ怪しさ全開なんだけど……。
っていうか、やっぱり俺の体操服って臭うのかな。今度香水でも買ってみようか。
自分の中の神楽先輩像が、砂のように儚く散っていく。俺、どうしてこの先輩に憧れてたんだろう……。
現状を改めて整理しよう。俺は今、サキュバスと吸血鬼という二体の悪魔に狙われている。どちらも俺を好意的に見てくれているらしく、俺としてもそれは悪い気はしない。
クラスメイトと先輩に取り合いされるなんて、男子高校生の夢みたいなものだ。ただし、それが人間同士の恋愛であれば、だ。
どうしてヒロインが悪魔しか登場しないんだ……!
俺は胸の内で、不条理に雄叫びを上げていた。
「こうなったら力づくで奪うまで……と言いたいところですけど、学校を破壊するわけにはいきません。決着はいずれ、別の場所でつけることにしましょう」
「ええ、こちらこそ望むところよ」
二人の間に見えない火花が散っている。防御魔法のことも知っていたし、神楽先輩も魔法が使えるのだろうか。だとすれば、俺にも想像できないような超常的なバトルが繰り広げられるに違いない。できればお関わり合いになりたくないが――
「もちろん、勇には見届けてもらうからね」
「……え?」
「そうですね。遊佐君に相応しいのはどちらか、見せてあげます」
「はぁ? それは私のセリフなんだけど」
「口が減らないですね。その胸元みたいに、もっと慎ましやかにしたらどうですか?」
「そっちこそ、その脂肪の塊をシュッとさせたら?」
「――へぇ?」
「――ふふふ」
言外にも交わされる殴り合いは、二人だけの苛烈な空気を生み出す。
隙を見て口を挟もうと思っていたが、いつの間にか人間には踏み込めない領域になってないか……。
こうして俺を巡る悪魔の戦いは、第二ラウンドへと持ち越されることになった。
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