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#21 「慌てなくてもちゃんと教えてあげますから」

 授業は全て終わった。後は図書館に行くだけだ。

 今日は神楽先輩との約束の日……ではあるものの、平穏無事に放課後を迎えることができた。


 神楽先輩とは学年も違うし、元から積極的に交流する機会があったわけではない。それこそ、件の図書室に足を運ばなければ。

 そう考えると、当日に音沙汰がないのは何もおかしなことではないように思える。


「じゃあ、行ってくるな」


「気を付けなさいよ」


 伊沼には昼休みの間に話をつけた。どうやら、伊沼自身は一緒に乗り込むつもりだったらしく、神楽先輩の目的を聞いてくると確約しどうにか納得してもらった。

 どうしてか伊沼と神楽先輩はそりが合わないらしい。そんな二人の仲裁をしながら話を進められる気はしなかった。それに、神楽先輩も”大事な話”に観客は求めていないだろう。


「……頭の片隅には入れとく」


 はっきり言って、何に気を付けるのかはさっぱりだ。相手は神楽先輩だぞ? あの人が他人に危害を加えるとは思えない。


「あぁそれと、先輩にこれを渡してちょうだい」


 伊沼が手渡してきたのは、四つ折りの紙。屋上への誘いを連想してしまうそれを、伊沼は「女同士の秘密のやり取り」だと言った。

 押しかけるつもりがないのなら、これくらいは安い頼みだ。


 残り一つの不安要素だった拓斗も、家で勉強するとすでに帰宅している。

 準備は整った。俺は心を決めて、図書室へと向かった。


「失礼しまーす……」


 放課後になってすぐだというのに、室内はひどく暗い。馴染みのある場所にも関わらず、夜道を一人で歩くような心細さを覚える。手探りで電気のスイッチに触れるが、電源はつかない。カーテンに閉め切られ外からの光も入ってこず、図書室にだけ夜が一足先にやってきたみたいだった。


「遊佐君、ようこそ。ちゃんと一人で来たみたいですね」


 声のする方――並列する本棚の影から神楽先輩が姿を見せる。

 ……有り得ない話だとは分かっている。それでも、神楽先輩が突如として暗闇から湧いてきたと錯覚してしてしまったのだ。素人の感覚とはいえ、たった今までここに人気は一切なかったのだから。


「……大事な話だって聞いてたんで」


 いつもなら乗ることのない、警戒心に近い感情が声にこもる。

 この時点で、おかしなことは山ほどあった。利用者のいない図書室、夕方だというのに暗すぎる室内、灯らない電灯、一分の隙間もなく閉じられたカーテン……。伊沼の『気を付けなさいよ』という忠告の意味を、肌で実感しているところだった。


「ええ、とても大事な話です。私にとって……そして、遊佐君にとっても」


「俺にとっても?」


 現実逃避をした思考の一端が、これは告白だと叫びを上げる。

 たしかに神楽先輩の表情や声は、いつになく上擦っている。俺を見る瞳もどこか煌々としていて、その光は闇に浮かんでは消えていた。


 俺の違和感はここで最高潮に達する。

 今日の神楽先輩は明らかに変だ。そう思っても足は縫い留められたみたいに動かず、ただ呆然と神楽先輩を見ることしかできなかった。


「ふふ、いい子ですね。慌てなくてもちゃんと教えてあげますから。――頭でも、身体でも理解できるように」


 ふわりと俺の眼前まで迫った神楽先輩は、両手で俺の顔を挟み込む。その目元は、変わらず怪しげな光を放っている。


 ――赤い光。

 神楽先輩の瞳が、赤く染まっていることに気付く。


 人は照れると顔や耳が赤くなったりするが、目の色が変わるという話は聞いたことがなかった。そう、目の前の先輩が人間なら有り得るはずのない変化なのだ。冷静な考察と動揺の狭間にいる俺に、神楽先輩はさらに混乱をもたらす発言をするのだった。


「遊佐君、私と付き合いませんか?」

お読みいただき、ありがとうがとうございます。

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