#20 「俺はな、金を稼ぐことにしたんだ」
「よぉ、勇!」
翌週の朝、元気良く家を訪ねてきたのは拓斗だった。
最近の憑き物はすっかり取れたようで、白い歯を見せて笑いかけてくる。
「元気になったみたいで何よりだ」
「ああ、心配かけたな。……俺はもう、恋愛なんて不確定なものに執着するのはやめたんだ」
「それ、世界中の恋する男女を敵に回しそうだけど大丈夫か?」
「気にすんなって。俺はな、金を稼ぐことにしたんだ。金はいいぞ、人と違って俺を裏切ったりしない。口も利かないから口論になることもない。一流企業に就職して稼ぎまくるために、俺は勉強に力を入れることにしたぜ」
いい笑顔を崩さず、拓斗は想像以上に現実的な言葉を並べる。
ただ、万年共にサボり続けていた拓斗が勉学に目覚めたことが、俺には少し寂しくもある。
――拓斗、お前が捨てた色恋沙汰は俺が責任を持って引き受けるよ。
そう都合良く解釈し、俺は賢人に生まれ変わった拓斗に心の中で敬礼した。
「あら矢川君、元気になったのね」
ちょうどそこに、身支度を整えた伊沼が現れる。
「おうよ! 伊沼さんにも心配かけたみたいだな」
「聞いてくれよ、伊沼。拓斗のやつ、勉強に本気で取り組むつもりらしい」
「いいことじゃない。勇も見習ったら?」
「俺はごめんだな。せっかくの高校生活なんだ、もっと恋愛にうつつを抜かしたい」
「それって、私と結ばれる気になってくれたってこと……?」
途端に目を輝かせ、伊沼は俺に詰め寄ってくる。
こいつ……自分のいいように受け取りすぎだろ……!
俺は自分のことを棚に上げ、伊沼を押し返す。
「ふっ、どれだけ夫婦漫才を見せても無駄だぜ。俺は勉学に魂を売ったんだ、その程度の誘惑で俺は動か、ない……」
血涙を流してるし、めちゃくちゃ歯食いしばってるじゃねぇか!
おまけに、魂を売ったとか物騒なこと言い出す始末だ。どうせ売るなら恋のキューピットとかにすれば良かったのに。
「あああああっ、くそぉ! 我慢ならねぇ! 見せつけやがってコンチクショー、俺は秀才になるからな! 稼ぎまくって、美人の秘書さんにスケジュール管理してもらうんだからな!」
まくしたてるようにそう口にした拓斗は、全力疾走で駅の方角に消えていく。
デジャブを覚える光景に、俺と伊沼は目を丸くして顔を見合わせる。
「なぁ伊沼、一つ頼んでもいいか?」
「何かしら?」
「もし拓斗が息詰まってそうだったら、勉強を手伝ってやってほしい」
拓斗がこんなことを言い出したのは、俺と伊沼が出会ってからだ。下手な刺激を与えてしまったのでは、と多少の責任は感じている。
「いいけど、一つ条件があるわ。その時はあんたも参加すること。中間テストだって、そのうちやってくるんだから」
「仕方ない……か」
「恋愛にうつつを抜かしたいなら、きちんと進級しなさい。未来の旦那様がいつまでも高校生なんて、私は嫌だからね」
お読みいただき、ありがとうがとうございます。
面白い、続きを読みたいと思ったら、☆評価や感想などを頂けると励みになります。




