#16 「俺たちは遊びにきたわけじゃない」
互いのことを知るという目標を掲げ、俺たちは休日を利用して近所の商業施設を訪れていた。
休みの日に同級生の女子と出かけるなんて、浮かれてデートとか勘違いするやつもいるかもしれない。だが、その点俺は現実を見ている。今回の趣旨は勉強会、決して遊びにきたわけではない。
そもそも、同じ家から出発している時点でワクワクも半減というものだ。
「ねぇ、勇」
「なんだ?」
服を引き、伊沼は俺を呼び止める。
……隣を歩いているから、そんなことをしなくても声は聞こえるんだがな。
「せっかく遊びにきてるのに、なんでそんな眉間に皺寄せてるのよ」
どうやら俺と伊沼には認識の乖離があったようだ。
仕方ない、ここは俺が伊沼に現実を教えるとしよう。
「伊沼、俺たちは遊びにきたわけじゃない」
「何言ってるの?」
「そのままの意味だ。今回は相手のことを知るために来たんだろ? するのは遊びじゃなくて勉強だ」
「寝てばっかのあんたが言うと説得力の欠片もないわね……。っていうかね、それならますます険しい顔なんかするべきじゃないでしょ?」
人差し指を立ててそう言った伊沼は、俺の額に指を押しつけてくる。
自分以外の体温が伝わり、なんだか顔がじんわりと熱を帯びる。
別に、恥ずかしがってるわけじゃないからな……って誰に言い訳してるんだか。
「相手を知ろうと気合いを入れるもいいけど、楽しまなきゃ自分のことも分かってもらえないじゃない。知りたいと思ってるのは、勇だけじゃなくて私もなんだからね」
「そうだな……気を付けるよ」
俺は反省した証拠に、口の端を無理矢理持ち上げる。
「不格好だけど、いい心がけね」
「ほっとけ。……慣れてないんだよ」
向けられた温かな眼差しがむず痒く、顔をふいと背ける。
今朝から、伊沼と思うように接することができていない気がする。どれだけ頭を空にしても、昨日の一件が頭から離れないのだ。
『私ね、勇のことが好きなの』
十七年間生きてきて、誰かに好きだと言われてのはあれが初めてだった。
一応、人並みに恋愛はしてきたつもりだ(過去の恋愛は全て片思いで終わっているが)。だから、こうして誰かから好意を寄せられる感覚は新鮮そのものだった。
けど、それから伊沼の一挙手一投足が気になり、見つめられると顔から火が出そうになる。
『好き』と言われただけでこんなに心が動かされるなんて、俺は随分とチョロい男だったらしい。
世のモテ男たちは、こんな経験をたくさんしているのか……。俺だったら心臓が破裂すること間違いなしだ。モテる男になる第一歩は、丈夫な心臓を持つことなのかもしれない。
「ちょっと、何ボーっとしてるの? ほら行くわよ」
そう声をかけてきた伊沼は、気付けば前を歩いていた。慌てて距離を詰める俺に、伊沼は手を差し伸ばしてくる。その手を取り、動揺を悟られないように歩くことに俺は全神経を集中させることになった。
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